夢幻神話─本編─
□第九章
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真夏の青空──川原沿いにある、陸上競技用のトラック。そこに集まるのは、同じ運動着を身に纏う高校生ばかり。
ピッと甲高い笛の音にあわせて横一列に並んだ男女達が一斉に走り出す──太陽に照らされた灼熱の大地を蹴り、真夏の生温い空気を切って、風になる──この瞬間が堪らなく速人は好きだった。
「河村、16分42秒! もう少しで大会記録だな」
「はい!」
監督の言葉に速人は冷静に、だが何処か嬉しそうな表情で答える──その輝く瞳は、走る事が楽しくて仕方ないと言わんばかりだった。
「いよいよ最後のインターハイだからな。悔いの無いような練習をやれよ!」
「ハイ!」
「よし、それじゃあ5分休憩! その後にダッシュをやるぞ!」
気合いの入りそうな、揃った元気な返事の後に、選手達は散り散りに飲み物を取りに向かった──そして速人はフと木陰に居る千尋の存在に気付き、彼女の元へ歩み寄った。