novel(long)

□恋の試練〜序幕
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「おっす」
「おぅ」


朝のラッシュでごった返す駅の改札口。


後ろから声を掛けられ振り向くと、朝も早くから満面な笑顔をしたウソップが立っていた。

声を掛けられた時点で誰なのかはとっくに承知だが、この笑顔を朝っぱらから浴びせられると、変な緊張で意気消沈させられる。


「てめぇは朝っぱから元気だな」
「何言ってんだ、俺は年中無休元気だ!朝からちんたら歩いてるんじゃねぇよ〜サンジ」
「うるせぇ」


ウソップにポンポンッと年寄りを労るように背中を叩かれると、このやろっと言うが早いか足が早いか、危なく飛んできたサンジの蹴りを交わしつつウソップは得意の俊足で走り出した。


「あっぶね〜ι」
「待ちやがれ、長っ鼻!」
「鼻は関係ねぇだろ!」


こんな朝のやり取りも毎朝の日課。


今までも、そしてこれからも。




二人の実家が近所の所為か、物心付いた頃から家族ぐるみの付き合いがあった。


サンジは隣町にある祖父の経営するレストランに、小さな頃からよく入り浸っていた。


両親は元々揃って家を空ける事が多かったのだが、サンジが成長するに従い海外出張も増えてしまい、中学入学を期に祖父ゼフの家から通うことになった。


ウソップの家庭も複雑で、父親は無類の旅行好き。

ウソップが小さな頃から、一度家を出ると何年も帰って来ない状態だ。


今も何処にいるのやら…


母親は昔から体が弱く病気がちで、ウソップの献身的看病の甲斐も無く、二年前に他界した。


昔から付き合いのあったサンジの祖父ゼフの同居の申し出も断り、母親が亡くなって以来一人暮らしをしている。


元々家計全般をウソップがやりくりしていたので、日々の節約が板に付いており、少なからずの貯金と母親の保険とコンビニのアルバイトで何とか生活出来ていた。


「ウソップ、今日もバイトだろ?」
「ああ、今日は9時上がりだ」


サンジはゼフのレストランを手伝いながら見習い修行もして忙しい日々を送っていたが、バイトをしながら切り盛りしているウソップをいつも気に掛けていた。


"幼なじみ"という立場と言うこともあるのだが、父親の蒸発、母親の死、いつでもウソップの側で見てきたサンジにはそれ以外の何とも言えない複雑な感情もあったのだった。


中学生の頃は授業中や部活以外、毎日のように朝から晩まで連んでいたのだが、ウソップがバイトのこの時間、サンジは暇を持て余す。


「今日はどうすっかな」


レストランを手伝っている間は、それこそそんな事さえ考えている暇も無いほど忙しいのだが、それ以外の日はバイトに急ぐウソップの後ろ姿を見つめながらそんな気持ちをつい抱いてしまう。


そりゃたまには女の子を誘ってデートなんぞをしたりもするが、女の子の期待とは裏腹にいつも紳士のままで終わってしまうのだ。


「ウソップ、また家で待ってていいか?飯持ってってやるよ」
「いいのか?いつも悪ぃな」
「遠慮すんな、どうせ店の賄いの残りだし。俺の美味い料理を食えてありがたいと思え」
「へぃへぃ、いつもサンキューな、サンジくん」


そう言いながらそれぞれ自分の教室へ向かった。
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