novel(long)
□恋の試練〜月
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あの日は金曜日。
土曜日、日曜日と休日が続き、あれからビビともサンジとも会っていない。
生まれて初めて俺を悩ませたこの出来事を思えば、この2日間はじっくり考え事をするには必要不可欠な時間だった。
いつもなら2日の内のどちらかはサンジやルフィなどと連んで遊びに出掛けたりするのだが、今週はそれ何処じゃない…。
もちろん、ビビへの返事もそうだが、ルフィやナミ、ましてやサンジにはとても会いづらい気まずい気分だった。
特に何をするでもなく、1週間分の細かな家事を片付け、フラリと外に散歩に出た。
ベンチで長々と考え込んだりしたが、だからといってそんなに簡単に答えが出てくるわけがない。
ウソップは良く知る歩き慣れた道を歩き、ゼフの店、「バラティエ」の前で立ち止まった。
いつもサンジの気性に振り回されて、強気に"絶交宣言"を押しつけたとしても、結局最後はサンジの顔が浮かぶのだ。
ウソップは店の入口ではない厨房へ続く裏口の前で、落ち着きなくウロウロと歩きまわり、窓からチラチラと中をのぞき込んだと思えば入口のドアの前に置いてあるワインケースに腰掛けて考え込んだり…。
この外の気配に厨房の手伝いをしながらも、サンジが気づかないハズがなかった。
『な〜にやってんだ、あいつは。さっきっから』
だからといって、休憩時間に入るまではこの場を離れるわけにはいかない。
だが、気が気じゃない…。
そのサンジの様子にコック達みんなが気づいているのだが、余計な口を出すとけが人が出るほどの騒ぎになるので、あえて知らぬ振り。
やっとの事で休憩に入り、急いで厨房から外へと飛び出したが、ウソップの姿はもう無い。
「あの野郎っ、何処行った?!」
店から少し離れ、あちこちウソップが行きそうな場所を探したが、見当たらない。
サンジは仕方なく厨房へ戻ろうと店の方へ目を向けたその時、テラスでボーッとしているウソップが視界に飛び込んだ。
「あいつ、あんなとこに」
テラスに駆け寄り、バンバン!っとガラスを叩いた。
その突然目の前に現れたサンジと、ガラスが叩かれる音に一斉に店員、お客がこっちを向いた事で、ウソップは心臓がどうにかなりそうなほど驚き、危うくグラスを倒しそうになった。
「サ、サンジ?!」
「この野郎!んなとこで何やってんだ!」
サンジのものすごい血相に腰が引けたが、ウソップは負けじと言い返した。
「な、何って…、お、お前こそなんだよっ。お、俺はお茶を飲んでるだけだ!」
心なしか涙目だ。声も震えて、足もガクガク…。
「茶ぁだと?てめぇ、さっきから何やってんだ!俺に用があんならとっとと中に入って来い!」
「………」
ここはレストランの一角。
今にも蹴りが飛んできそうな勢いだったが、それは流石のサンジもすることは無く、ストンッと椅子に腰を下ろしたウソップと同時にサンジも肩の力を抜いた。
「お、俺だってうまい茶を飲みながらこういうオシャレなとこで考え事をしたい時もあんだっ」
そう言うとさっき危うく倒しそうになったグラスに残っているアイスティーを、ズズズと一気に飲み干した。
そんなウソップを見てサンジは何となくホッとした。
「ウソップ、仕事済んだらそっち行くから家で待ってろっ」
サンジはウソップの頭をぐしゃぐしゃと撫で繰りながらそう言って、ウソップが何も言い返せないうちにお店の中に向かって一礼をすると、さっさと厨房の方へ戻っていってしまった。
その場に残されたウソップは、恥ずかしさ、照れ臭さもあって、がくりとテーブルに俯せた。
「あいつ、大丈夫だったのか?仕事の服、着てたぞ…。仕事、抜け出して来てたんじゃ…。じいさんにどやされんじゃね〜か?!お、俺も、頭下げに行った方が…い、いやいや、あいつなら大丈夫だろう、じいさんのひと蹴りやふた蹴りくらい…。あいつも素直じゃねぇからなぁ。絶てぇ自分から頭下げるわけねぇだろうし…」
ウソップはゆっくりと頭を上げて、サンジの消えていった方向を眺めた。
「あいつ、俺の事、もしかして探してくれてたのか?もう、怒ってもない感じだったな…」
ウソップは来たときとは何となく違う足取りで家へ向かった。
ちょっとばかり気持ちが楽になった様にも感じたが、実際には"ウソップ最大の悩み事"は全く解決はされていない。
だが、昨日あれだけウソップを怒らせるような事を言っていたあのサンジが、自分の事を心配して探し回ってくれたという事が、何故か無性に嬉しかったのだ。