novel(long)
□恋の試練〜日常
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早朝。
気合いを入れて、いつもよりだいぶ早い電車に乗り込んだ。
当然、学生服姿の奴らより背広を着たサラリーマンが殆どだ。
改札を出て学校までのこの道のり、いつもはサンジと肩を並べながら、のんびり歩いて行く道も、今日は自然と早足になる。
ウソップは今日、ビビに返事をするつもりだ。
自分なりに散々考え抜いた事だ。
まだ、疎らにしか人がいない校門を抜けて、1年生の下駄箱の前に立つ。
ビビのクラスだ。
準備しておいた小さなメモを、ビビの上靴の下に置いた。
「これで良し!」
これだけの事でも、ものすごい緊張感。
胸の鼓動が収まらないまま靴を履き替え、早足で自分の教室へ向かおうとした時、後ろから声を掛けられた。数時間前まで聞いていた声だ。
「ウソップ」
背中がぴくりとして振り向くと、いつもの朝の眠そうな表情とは違う顔をしたサンジが立っていた。
「おわっ、サ、サンジ!え?いつもよか早くねぇか?」
「別に普通だろ?てめぇこそ」
「お、俺はちょっと用があってだな…ι」
昨日の今日で、ウソップがこの時間に何をしてるのか知るか知らずか、そんなサンジに今の緊張感のまだ抜けきらない顔を見られるのが照れくさくて、
「じ、じゃあな、サンジ」
ウソップは手を挙げながら、そそくさとサンジに別れを告げた。
サンジにとったら聞きたい事が山ほどだったが、ウソップから言い出すまでは待つしかなさそうだ。
授業が終了し教室を出ようとドアへ向かうと、ひょこっと廊下からウソップが顔を出した。
「ウ、ウソップ!どうした?!」
ウソップが3年のサンジの教室まで来るのは、本当にまれだった。
大抵はサンジが用事を口実に、ナミのクラスを覗きつつ、ウソップの教室に顔を出す事が多いのだ。
「サンジ、今日レストランの手伝いだろ?」
ウソップを見た感じ、朝出会った時の様な雰囲気は無い。
いつも通りの笑顔だ。
「あ、ああ。お前は?バイトだろ?」
「ああ」
そう答えると、少しの間が空いた。
『ビビちゃんとはどうなったんだ…?』
そう言いかけようとした時、ウソップの声が遮った。
「あのよ…、今日の夜、空いてるか?」
「え?あ、ああ」
思ってもみなかったウソップの言葉。
単によくある事なんだが、ウソップからこういう言葉で誘ってくるなんて、かなり珍しい。
気を抜いたら、顔がにやけてきそうだ。
『…ビビちゃんの事、だよな?』
そう考えると気が重くなった。
正直言うと喜んで聞きたい話ではない。
だからといって、この状態のままというのも全く落ち着かないのだが、ウソップが自分から話に来てくれたと言う事だけでもサンジは充分だった。
「手伝いが済んだら、いつも通り待ってっから」
ウソップにしても、自分がサンジをわざわざ誘いに来る事など今まで無かったので、サンジの返事に少し構えていた。が、いつも通りのサンジの言葉を聞き、ホッとする。
「いつも悪ぃな。じゃ、後でな」
ウソップは手を振りながら、階段を下りて行った。
ウソップの後ろ姿を見つめながら、サンジも階段を降り出した時、後ろから声を掛けられた。
「嬉しそうね〜、サンジ君」
振り返ると腰に手を当てながら立っているナミがいた。
「ナミさ〜んっ」
「よぉ、サンジ!何か食いもん持ってねぇか?」
その抜けた声を聞いて、サンジの眉が吊り上がった。
「てめぇはいつも俺を見る度、食い物の事しかねぇのかよっ!」
血相を変えてるサンジを無視して、階段の先を見ながらナミが聞いてきた。
「さっきのウソップよね?珍しいわね、3年の教室のある階にまで来るなんて…何かあった?」
「い、いや、別に。ウソップに用ですか?」
そう言いながら、へばりついてくるルフィを足蹴にしながら笑いを浮かべた。
「ううん、それならいいの。昼休みの時の様子がちょっとおかしかったから気になって…」
サンジにはそう言うナミの声が完璧に耳には届いていたが、あえて何も言わずにルフィにお得意の足技を炸裂させた。