novel(long)
□学園祭の試練〜前夜
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学園祭前夜―。
ウソップは結局、泊まり込みをする事になった。
看板はほぼ完成していたが、ウソップだけはまだ、満足し切れていなかった。
他の美術部員には帰宅してもらい、一人残ってでも満足いく作品に仕上げたかったのだ。
校舎の中にはウソップ同様に、泊まり込みをする生徒がちらほらといるようで、先ほどまでがやがやと合宿の様な賑わいで大騒ぎする声が聞こえていたが、この時間ともなると、眠気に落ちていく奴らも増え、徐々に静まり返っていく。
ウソップは一人、いつものイチョウの木の下で一息つく。
「腹減ったな…。何か、買ってくるかな〜」
ポケットの中でジャラジャラいっていた小銭を確認しながら立ち上がろうとした時、暗闇の中からボソリと囁くような声が聞こえた。
「Σ?!な、なんだ?」
「おい、ウソップ」
「ヒィィι!!」
1メートル、いや、2メートルは後ろに後ずさったか…?
「だ、だ、だだ、誰だっ?!」
ウソップがガタガタと体を震わせ、声を震わせ、構えのポーズを取る。
「アホッ!何びびってんだ!俺だ、俺!」
「サ、サ、サンジ〜ι」
ようやく顔が見える距離までサンジが近づき、ウソップはホッと胸を撫で下ろした。
「びびらせんじゃねぇよ、俺様の寿命が縮んだらどうしてくれんだ!」
「てめぇが勝手に、びびったんだろっ」
「それよりどうしたんだ?サンジ、帰ったんじゃなかったのか?」
「ああ。仕込みも終わってるし、あとは当日の朝で間に合うからな」
「何か忘れもんか?」
緊張したあまりベンチの前に立ちつくしているウソップの前を素通りして、サンジはベンチに腰掛けた。
「ほらよっ」
「?何だ?」
サンジの差し出した紙袋を受け取り中を覗き込むと、
美味しそうな香りがふんわりとウソップの顔を覆った。
「おぉ〜、うまそ〜!」
「腹、減ってんだろ?」
サンジはウソップの心の中を見透かしたように、ぐる眉をつり上げてニヤリと笑った。
「サンジぃ〜、そうなんだよ、もう腹減ってぶっ倒れそうだったんだ」
「だろ?感謝しろよっ」
「ありがとな、サンジ」
ウソップはサンジと紙袋に手を合わせて、ガサガサと包みを開けた。
チーズや卵、ハムやレタスの入った色とりどりのまだ少し暖かいホットサンドだ。
「うまそ〜♪いただきま〜す」
あっという間に大量のホットサンドを平らげて、自分で買って置いた牛乳を飲み干す。
いつもならウソップの家でのんびり二人で過ごす事もある時間。
いつもの賑やかな校舎も静まりかえり、少し不気味さを感じるが、これもまた、こんな時しか味わう事の出来ないワクワク感でもある。
それに、二人いれば心強い。
ざわざわとイチョウの葉が揺れ、サンジの煙草の煙も風に乗り…
「っておいっ、サンジ!!煙草はやべぇだろ!」
「んだよ、ケチケチすんな」
「そういう問題じゃねぇ!たまに見回りの先生が来んだぞ!」
「チッ」
ウソップのブツブツ呟く小言に鬱陶しそうな顔をしつつも、持っていた携帯灰皿で火を消した。
「さてとっ」
そう言いながらウソップはベンチから立ち上がり、
ホットサンドの食べかすをパッパッと払い落とした。
「サンジありがとな、わざわざ差し入れに来てくれて」
大きな伸びをしながらサンジの方を見た。
「ばっかやろ、ついでだ、ついで」
「……こんな時間に何のついでだよ!」
ウソップからの突っ込みを気にも留めず、こんな事いつでもしてやるよっとでも言うように、サンジはウソップの髪をぐしゃぐしゃと掻き撫でた。
「じゃ、始めるか」
今度はサンジが気合いを入れ立ち上がる。
「え?帰んじゃねぇのか?」
「ついでだっつっただろっ。で、俺は何をすりゃいいんだ?」
そう言いながらスタスタとメインゲートに向かって歩いていく。
ウソップはその後ろ姿をボー然と見ながらも、お腹のそこからムズムズとくすぐったい感情が沸き上がるのを覚えた。
段々と我慢しきれないほどの笑いも込み上げてくる。
「ウソップ、てめぇ何を笑っていやがるっ」
「な、何でもねぇよι」
「ここ、塗っていいんだろ?」
「お、おいっ!そんな色勝手に塗るんじゃねぇっ!」
完成まであと少し。
スーッと少し肌寒い秋風が、2人の周りを通り抜けた。
To be continued…