novel(long)
□聖夜の試練〜出会い
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「母ちゃん、死んだんだ」
今から2年前の冬、電話口でそう伝えてきたあいつの声、俺は今でも、忘れられない…。
俺があいつと初めて会ったのは、俺が中学3年の時。
弟のルフィが入学早々、家に連れて帰ってきた。
今までルフィが連れて来た奴らで、わざわざリビングにいる俺に頭を下げながら挨拶してきたのはこいつが初めてだった。
にこりと笑顔を向けてくるこいつに釣られて、俺もとりあえず頭を下げたが、気になったのはやけに長い鼻と分厚い唇、癖の強い黒髪、真ん丸の大きな目。
思わず見入ってしまったほどだ。
あいつと目が合い、俺は慌てて目を逸らしたが、
「俺はウソップ、よろしくな、お兄さん」
こいつはそういって俺の手を無理矢理掴み、握手させられた。
礼儀正しいんだか、人なつっこいんだか、図々しいんだか、最初の印象はそんな感じだった。
その後もちょくちょくうちに遊びに来るようになり、俺の友達とブッキングした時でも、いつの間にか輪の中に入り込んでいつでも場を和ませていた。
「ルフィ、俺、そろそろ帰るな」
「え〜?もうそんな時間か〜?」
「ルフィ、エース、またな」
あいつはいつも必ず決まった時間に帰って行った。
いつでもだ。
「たまには一緒に飯でも食ってけばいいのにな」
「あいつの母ちゃん、病気なんだ」
ウソップの母親は昔から体が弱いらしく、その母親の代わりにウソップが家の事を全てやっていると言う事も俺はそれまで全く知らなかった。
普段のあいつを見る限り、そんな事など露も見せずにいつも楽しそうに笑っていたから。
それ以来、家でも学校でもウソップを自然と目で追いかけるようになった。
もちろん、弟の仲の良い友達として。
ある日、偶然、廊下でばったり出会った。
「あ、エース」
「よぉ、ウソップ」
いつものように高めの声でにこやかに笑いながら声を掛けてきたウソップの隣に、何となくは見覚えのある金髪。
確か…、C組のサンジ。
「エース、こいつの事、知ってるか?サンジだ、俺の幼なじみ」
「…へぇ」
そんな事を知ったからって俺には関係の無い事だったが、とりあえず頭を下げてみた。
すると、仏頂面をしながらも、俺の顔をちらと見ると同じ様に頭を下げてきた。
思ってもみなかった反応。
俺のそんな表情に気付いたのかウソップをほったらかしにしたまま、さっさと歩き出していた。
「ウソップ、行くぞっ」
「あ、ああ。じゃあな、エース」
サンジに強めに呼ばれたウソップが手を振りながら慌ててサンジに駆け寄ろうとすると、横からスラリと長い足が伸び、ゲシゲシとウソップに軽い蹴りが入れられていた。
その蹴りに返すように、怒鳴り散らしているウソップの姿。
その2人の後ろ姿に俺は何とも言えない悔しさが沸き上がったのを覚えている。
その後、サンジとはたびたび顔を合わせる場面があり、挨拶程度は交わしたが、特にお互い意識するほどでもなく、それ以上の関係にはならなかった。