novel(short)
□おたのしみ。
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午後のひととき。
昼食が済み、今日はおやつにナミさんご希望のオレンジシフォンケーキを焼いた。
いつものように大好評で、満足感に浸る。
片づけを終わらせ、夕食の仕込みまでのこの時間。俺にとっての唯一の時間。
キッチンから数時間ぶりに甲板に出ると、みんなそれぞれに自分の時間を過ごしている。
ナミさんとロビンちゃんはデッキチェアに腰掛け、読書中。
ルフィは珍しく、見張り台で次の島を探索中?単なる夕食までの暇つぶしか?
チョッパーは、……いねェなぁ。部屋でクスリの調合か?
マリモは、まぁた寝てやがるっ!まあ、どうでもいいが。
俺は真っ青な晴れ渡る空を見あげて、煙草の煙を長く吐いた。
聞き耳を立てる。それらしき声はどこからとも聞こえない…。
階段を降り、船首へ向かう。
「サンジくん、お疲れ様」
「ナミさ〜ん♪」
読書のお邪魔をしないように、極力、気配を消して通り過ぎようとしたつもりなのに…、さすがナミさん♪
「ナミさん、ロビンちゃん♪アイスティーでもお持ちしましょうか?」
ロビンちゃんも本から目を離し、美しい黒い瞳で俺を見上げる。
「いらないわ。ありがとう、サンジくん」
「ロビンちゃんは?」
「私も結構よ。ありがとう、コックさん」
「御用の時は、何なりと♪」
二人に一礼してから、再び辺りを見回した。
「船尾にいたわよ」
「え?……はい」
ナミの言葉通りの方角へと歩き出す。
フフ…とロビンちゃんの笑い声を後にして、俺はそそくさと船尾へ向かう。
ちょこちょこと揺れる影を見付けて、いた!と思えばピンクの帽子。
チョッパーかよっ!!
「あれ?サンジ、きゅうけいか?」
クソ可愛らしい声と姿形でニカッと笑う。
「まぁな」
そこを後にしようと踵を返した途端、聞こえたお目当ての声。
「よ、サンジ。休憩か?お前も俺の勇敢なる冒険談を聞きに来たのか?」
チョッパーの後ろからひょこっとウソップが顔を覗かせた。
『そんな所にいやがったのかっι』
いつものくだらないホラ話なんぞ聞く気もねぇが、俺もチョッパーの隣に座り込み、再び煙草を取り出し火を点ける。
ウソップ本人曰く"キャプテンウソップ活劇冒険談"はもうクライマックスに近いらしい。
チョッパーはウソップの話に夢中だ。
俺はというと、こいつのホラ話は右から左…全く上の空だ。
そんなホラ話より、"こいつ"の愛嬌のある顔を見ている方が、断然、楽しかったりする。
コロコロ変わる豊かな表情、大げさな手振り身振り、そのたんびに揺れる長い鼻。
『…退屈しねェ』
「お〜い、聞いてるか〜?サンジ」
「ったりめェだ、聞いてるよっ」
もうすぐ夕食の仕込みに取りかかる時間。
あと少しだけ、こいつとの時間を、俺の楽しみに。
[END]
→あとがき