novel(short)
□ロマンチストとエゴイスト
1ページ/2ページ
あいつを見つけた。
学校から最寄り駅まで続く、長い長い一本道。
毎日のように必ず目にする金糸の髪を見間違う事も、見落とす事も出来ないほどに、俺の所へ通い詰めたあいつ、サンジ。
普段は女の子に目がないハズなのに、俺だけ、俺だけには女の子と同じ様に特別に扱う。
「てめェ、きのこを残すんじゃねェよっ!」
「このやろう、聞けよ、俺の話を!」
「もたもたすんじゃねェ、長っ鼻!」
い、いや…、口は確かに悪いι
そこじゃねェんだ、俺の言いたい所は。
たとえば、サンジは料理が得意だ。
それに、美味い。
俺に毎日、手作り弁当を作って持って来てくれる。
あいつに会うまで毎日、市販の菓子パンばかりを食っていた俺には、かなりありがたい事だった。
でも毎日だぜ?
あいつも大変だろうと一度だけ遠慮した事があった。
「何言ってやがんだ、このクソ野郎!てめェが断るなんざ100年早ェんだよ!!」
今後一切、遠慮なんぞするもんじゃねェと心に決めるほどの蹴りを頂戴した。
それもあいつの優しさだ。
それから、沢山の重そうな教材を運んでいた女の先生がいた。
大変そうだったんで、非力な俺様も少しは役に立てるかと声を掛けた、うちの担任だったし。
その担任が「ありがとう、頼むわね」と俺に微笑みかけた瞬間、
「どけ、長っ鼻!」
またもやお決まりのサンジのシュートが俺の鳩尾に入った。
「俺が手伝いましょう、さぁ、どうぞ♪」
腹を抱えて踞っている俺に振り返りもせず、去って行ったあいつ。
それも、あいつならではの優しさ…優しさだぁ?んなわけねェだろ!!
俺は毎日の元気の源、○×印のコーヒー牛乳をゴクゴクと一気に飲み干して、宿敵サンジを屋上で待ちかまえた。
今日こそは溜まっているモノ全てを吐き出してやろうと。
来たっ!!
「おいサンジ!いい加減にしろよっ!毎日毎日飽きもせず俺につきまとうのは!!」
「な〜に言ってやがんだ、てめェは。全てお前への"愛"だろうが!」
「はぁ?第一、何で俺なんだよιお前はレディが好きなんじゃねェのか?俺は男だしそんな特別はいらねェ!優しくなんかして欲しくねェよ!!」
叩き返してやった、ビシッと!!
今までのそのサンジが言うエゴとしか言えねェ様な偏屈な"愛"とやらを。
してやったりと息を切らせて怒鳴り散らしたこの俺様に、俺が予測してた表情をサンジは全く以て見せずに、ただただ笑っている。
それも、ニヤリと口の端を持ち上げるように…。
「な、な、何笑ってんだ!わかったな!俺を見くびるなよっ!」
「ああ、良〜くわかった」
や、やけに素直だ…ι何かあるんじゃねェのか?おいι
そうこうしてるうちにサンジが徐々にこっちへ向かって来て、構えのポーズをとる俺の目の前に…
「これからはてめェなんかに優しくしねェし遠慮もしねェ。俺もその方が気が楽だしよっ!あ〜甘ったりいもんばっか飲むなよ、虫歯になんぞ」
サンジの笑い声が段々と遠ざかり、バタンッとドアの閉まる音が響く、俺の頭の中をぐわんぐわんと…。
「く、く、口付けて行きやがった!」
やられた…ι
俺様のファーストキスを返しやがれ!!
学校から最寄り駅まで続く、長い長い一本道。
あいつを見掛けて走り寄る、俺。
あれからサンジがしつこく付きまとってくる事はなくなったが、それもそのハズ、
「よ、サンジ。今、帰りか?一緒に帰ろうぜ」
「お、ウソップ。そりゃあいいけど、覚悟してんだろうな、おい」
「いや、帰るだけだ、覚悟なんていらねェだろっ」
「ただで帰れるとは思ってねェよな?」
「……や、やっぱり一人でカエリマス」
「ウソップ、男だろ?今更ロマンチックもクソもねェんだよっ!」
「いや、ロマンは大切だよ、サンジくんι」
後悔しても、もう遅い。
キスまでされたとなっちゃあ、黙っていられるハズがねェ。
そんじゃ、男ウソップ、その偏屈な"愛"とやら、受けて立ってやろうじゃねェか!
その代わりに俺製法の純朴な"愛"?で叩き返してやるけどなっ!
[END]
→あとがき