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□がんばる保育士さん!弐の巻
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この幼稚園では、数ヶ月に一度、親子給食会が行われる。
子供達の昼食は、1週間の内半分は給食、半分はお弁当なのだが、
この日に限ってはお母さん達に園まで出向いてもらい、子供達の為に、腕を振るってもらうのだ。
仕事をしているお母さんもいるので、全員というわけにはいかないが、作りたての温かい給食をお母さん達と食べられるという事で、
子供達はいつもこの日を楽しみにしていた。
「ウソップ先生、今日の給食会にチビナス君のお兄さんも来るそうですよ」
「そ、そうなんですか?」
チビナスの兄は普段の日、園の送り迎えに来る事は無いのだが、コックという事もあって、この給食会の時には園から直々に頼まれているようだ。
ウソップは今まで一度も会った事が無い為、心なしか緊張していた。
子供達が保育をしている間にお母さん達がぞろぞろと園へ訪れ、早速調理室に入り、仕込みを始める。
調理室内がキャアキャアとざわめく中、一際目立つ長身の金髪頭。
手元を見れば、トトトト…と見事な包丁さばき。
あっという間に、調理する早技。
「おいしそ〜♪」
黄色い歓声が沸き、お母さん達が手を出す間もなく、幼稚園中に美味しそうな香りが広がった。
今日の献立は子供達の大好きなカレーライスとデザートのオレンジゼリー。
教室でお絵かき中、美味しそうな香りが漂い始め、ウソップのクラス、ひつじ組も自由画帳を放り投げ、大騒ぎだ。
「あ、いいにおいがしてきた!」
「やった〜!きょうはカレーライスだ〜!!」
こらこらと騒ぎ出す子供達に注意をするウソップだったが、美味しそうな香りに反応し、鳴り出すお腹は何よりも素直だ。
「きょうはチビナスくんのおにいさんもきてるんでしょ?」
「う、うん」
「おにいさんがつくるデザートもたのしみだね」
子供達はチビナスを囲み、そわそわしっぱなしでお絵かきどころじゃ無くなっている。
その輪にウソップが顔を覗かせると、少し照れた様にはにかむチビナスの姿。
釣られてウソップも笑顔を向けるが、チビナスはプイッとそっぽを向いてしまった。
いつまでも自分にだけは笑顔を見せてくれないチビナスにウソップはどうしたら心を開いてもらえるのかといつも悩み考えていた。
「ハァ…ιみんな〜席に着けぇ!給食の時間はまだだぞ〜!」
「ウソップせんせいだって、たのしみなくせに〜」
「ハハハ、ま、まぁなι」
子供達に図星を突かれ、ウソップは苦笑する。
保育中にこんな美味そうな匂いが漂ってくれば誰だって気が散るよな…などと口には出せず、給食の時間になるのをウソップも密かに心待ちにするのだった。
保育時間が漸く終わり、母親達が教室に入ってくる中、子供達は机を並べ替え、円を作る。
お母さん達に手を振りながら、子供達は一斉に手を洗いに走り、この間に大人が配膳を終わらせ、机の上に湯気立つお皿がずらりと並ぶ。
子供達を囲むように母親達も席に着いた。
「え〜、今日はみんなのお父さん…は、いねぇかιお母さんとお兄さんがみんなの為に作ってくれた給食です。美味しく、楽しく、残さず食べましょう。では、いただきますっ!」
「いっただきま〜す!!!」
ウソップは嬉しそうにカレーを食べ始める子供達を暫く眺め、給食を作りに来てくれたお母さん達に笑顔で頭を下げていく。
ふと目が合う。
一目でわかった、チビナスの兄だ。
他のお母さん達と同様にニコリと笑顔を向け、少し念入りに頭を下げるが、笑顔を返してもらえるどころか、ギロリと逆に睨まれてしまった。
『お、俺睨まれてる?ιな、なんで?!ιι』
ショックを受けつつも、ウソップは苦しい笑顔をチビナス兄へと負けじと向けるのだった。