odai

□秋模様10のお題〜09 歌声
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耳を澄ます。

どこまでも続く青い空と蒼い海。

白い雲と白い波。

風の音と波の音。

もう一度、耳を澄ます。

がやがやと大騒ぎするクルーの声に掻き消されながらも、微かに耳に届く木槌の音。

"トントントンカンカンカン"

足が勝手に音を探して方向転換する。

"トントントンカンカンカン"

耳打つその音に近づくに連れ、紛れて聞こえてくるメロディ。

「ウソップ」

そう呼べば、作業を止めて振り返る、声の主。

「よぉサンジ。休憩か?」
「差し入れ。溶けないうちに飲めよ」
「おぉ、サンキュー」

氷が入ったグラスを手渡す。

「うめぇ、何だこれ?レモンか?」
「ああ。俺特製レモネードだ」
「特製?普通のと何処が違うんだ?」
「アホ、特製っつったら特製なんだよっ」
「ふ〜ん」

ズズッと最後の一滴まで一気に飲み干すと、グラスを差し出し笑顔を向ける。

「まだ掛かるのか?」
「ん?まぁ、夕食までには終われそうだな」

再び木槌の音がメリー号に響き渡る。

少し離れた手摺りに寄りかかり、煙草に火を着けた。

"トントントンカンカンカン"
"フーンフフフフンフーンフフフフン"

テンポの良い木槌の音に混ざり込む小さな鼻歌。

「…おい、ウソップ。そりゃ何の歌だ?」
「え?今の歌か?知らねぇのか?サンジ。有名な歌だぜ」
「知らねぇ」

今度はウソップが口ずさむ歌に、再び耳を澄ませてみる。

リズムに乗った少し鼻に掛かるようなウソップの歌声が俺の中を駆け抜ける。

「やぁっぱり、わからねぇ」

フーッと煙草の煙を吐きながらそう答えると、ウソップはこっちに向き直りニヤッと笑った。

「これはキャプテーン・ウソップ作曲!"勇敢なる海の戦士ウソップ"っつう曲だ!知らねぇのかぁ、サンジ」
「知るわけねぇだろっ!」
「俺様特製"元気になる"曲だ。お前には特別に伝授してやろうか?」
「いらねぇよ!」

サンジの必死な形相に、ウソップがゲラゲラと笑いながら再び木槌の音を響かせる。

"トントントンカンカンカン"
"フーンフフフフンフーンフフフフン"

広く青い空の下。

徐々に赤く染まりだした地平線。

フーッと再び煙を吹けば、キミの歌声と共に風に乗る。


[end]


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