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□秋模様10のお題〜10 オレンジ
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今晩の船の見張り番は俺。

サンジの作ってくれた夜食のサンドイッチとポットに入れた暖かい紅茶を片手に、見張り台に上がったのは今から数時間前。

毛布にくるまりながら、夜食といえども一切、手を抜いていない美味いサンドイッチをぺろりと平らげ、紅茶は残り一杯分を残し、大好きな甘さをじっくりと味わった。

あと数時間で次第に光が差し込むであろう大海原を見詰めていると、突然、聞こえるはずもない声が俺の名前を呼んだ。

「ウソップ」
「だ、だ、誰だっ!?」

こんな夜更けにあり得ない声が聞こえれば、誰だってびびるだろ?

「なーに、びびってんのよ」

声の主は自分の名前を一切告げず、見張り台の中を覗き込み、昼間に見る勇ましい表情を露とも見せない笑顔で、有無をも言わさず俺の毛布の中へ潜り込んできた。

「ナ、ナミ、どうしたんだよ、こんな時間に」
「そんなにおかしい?」
「おかしいだろ、こんな時間に…それもお前、こんなとこまで登って来んの初めてじゃねェのか?」
「そおだっけ?」

ナミはウソップの動揺に特に反応もせず、毛布の暖かさを心地よく味わっている風だ。

「遅くまで海図を書いてたら、眠れなくなっちゃったのよ」

ナミはそう言いながら、まだ明るく光っている満天の星空を見上げた。

ウソップはその言葉に何も返さず、ナミに殆ど持って行かれた毛布に再びくるまり治した。

触れ合う肩と肩。

ウソップも同じ様に、星空を見上げる。

この星空、イーストブルーにも同じ様に見えてんだろうなぁ。

思わず笑顔を零したウソップにナミが気付く。

「やぁだ、何ニヤニヤしてんのよ」

そんな事を言われ、慌てて視線を外すウソップ。

「に、にやけてなんかねェって!」
「どうせ誰かさんの事でも考えてたんじゃないの〜」
「だ、誰って誰の事言ってんだι」
「暴れるな!」

バタバタと騒ぐウソップの脇腹に、肘鉄を食らわすナミ。

「痛て〜だろっ、何すんだっ!」

ナミに肘打ちされた脇腹をさすりながら大声で叫ぶと、視線を海へ向け、ナミはポツリと呟いた。

「ねぇ、この星空って、何処までも同じ様に見えてるのかしら?」

ウソップの動きが止まり、思わず立ち上がり掛けていた腰を再び下ろす。

「見えてんじゃねェのか、何処までも」

ウソップもナミと同じ方向を眺めた。

「ナミ、ほら飲めよ」

ウソップがナミの目の前に差し出したのは、白い湯気が立ち上がるマグカップ。

「暖まるぜ〜」

ナミはウソップの笑顔を見ながらカップを受け取り、何も言わず口を付けた。

「…おいしい」
「だろ?」
「けど、甘すぎ」
「なんだとぅ!」

再び必死になってナミに食って掛かろうとするウソップに、ナミはいつもの笑顔でケタケタと笑う。

「あ、そうだ。あんたにあげる」
「?」

掌に乗せられたのは、鮮やかな色のオレンジ。

「え?いいのか?」
「大事な紅茶のお礼よ」
「///!!た、ただの紅茶だろっι!」

地平線にうっすら光が差し始めた。

じき、夜が明ける。

俺を指差し、いつまでも大口を開けて笑っているナミを眺めながら、サンジの煎れてくれた甘い紅茶の味が口の中に広がっていく気がした。


[end]


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