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□冬模様10のお題〜10 ゼロ
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「じ、冗談…だろ?」
「いや、マジ」
そんな言葉を吐いたのはほんの数分前。
ある日の海上、GM号内キッチン。
いつものように夕食後、サンジを手伝い、食器をシンクへと運び、サンジがテキパキと洗う食器をフキンで水気を取り、食器棚へとしまう。
毎日毎日、一日3回。
普通はこんな事、面倒臭くて、毎日やってる奴の気が知れねぇ。
と、それまではそう思ってたんだ。
母ちゃんが死んでから、いや、その前から家の事を俺がやっていた時から、実はあんまり好きじゃなかった。
GM号に乗る事になって、やっとこの仕事から解放されると思ったのに、全くやらねぇんだ、女のくせにナミは。
やらねぇんじゃねぇんだ。
頼めばやってくれるが、全て有料…。
だからといって他のクルーといえば、これまた何にもしねぇ。
ゾロは寝てばっかしでほっておいたら日が暮れるまで寝てる時もあるくらいだし、ルフィはやる気があるんだが、その行動に反比例する結果になる。
そうなると、やっぱり俺がやるしかなくなるんだよ…。
ま、今までやってきた事の延長だと思えば、やれない事はねぇんだけど、あいつらの世話はなんか割に合わねぇんだよな〜。
でも、うれしい事にコックが乗船する事になった。
料理はもちろん、家事も滞りなくこなすし、他の奴らが見落とす事にまで良く気が付く。
ま、これはサンジに言わせるとレディ限定みたいだけどな。
俺の仕事もずいぶんと楽になったんだけど、全部サンジに任せるというのは俺の性格からして出来ない質なんで、食事の手伝いと片づけくらいは手伝うようにしてるつもりだ。
この日もウソップは、いつものように食事の支度をするサンジの手伝いをしていた。
サンジが指示をするように皿、フォーク、スプーンを並べ、出来上がった物からテーブルへと運ぶ。
匂いを嗅ぐだけで涎が溢れだしてくる料理を目の前に、お預けを食らっているようなこの状況は結構、辛い物でもある。
だから、サンジのこの言葉に首を横に振るなんて考えられなかった。
「おい、ウソップ。味見するか?」
「え?!いいのか?」
サンジが鍋からスプーンでひとすくいしてウソップの口元へ差し出した。
ウソップは特に何も考えず、ひな鳥のように大口を開けた。
「あちーっ!」
「アホ、一気に食う奴があるか!早く水飲め!」
サンジが渡してくれたコップに入った水を勢いよく飲み込む。
ゴクンと喉を通り越したはいいけど、舌がどうしようもない位ヒリヒリと痛痒い。
「痛ぇ、やけどした」
「どれ?見せて見ろ」
少し涙目になったまま、サンジの言葉に疑いもなく舌を出した。
ウソップの舌を凝視するサンジの顔がフッと至近距離内に入り込んできた瞬間、ヒリヒリとしていたハズの舌が柔らかい物で包まれた。
舌を出すと目を瞑るという条件反射で自然に閉じてしまっていた目を見開くと、目の前にはサンジのぐる眉。
一瞬、どんな状況になっているのか思考が働かず、そのままの状態で数十秒。
漸くこの状況が理解できるようになった頃、俺より先にサンジが顔を離した。
「な、な、なんなんだ?!」
「何ってキスだろ?」
「そ、そんなのはわかってんだよっ、ってかなんなんだよっ!」
「だからキスだっての」
サンジはそう言い放つと夕食の支度を再開させた。
ウソップは暫く呆然とその場に立ち尽くしていたが、そのうちにバタバタとキッチンに雪崩れ込んできたルフィ達の所為で、何とか気を取り戻したのだが、サンジには何も言えないまま、いつも通りの賑やかな夕食へ突入してしまった。