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□冬模様10のお題〜09 ふたりきり
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船をあまり目立たない岩場の影に隠し、それぞれ準備を整え、順々に下船して行く。というのが、いつものお決まりな形だったが、いつも一番に大はしゃぎで船から飛び降りる船長を差し置いて、早々と下船してしまったクルーがいた。


「ルフィ、悪りぃけど、お先!」
「ウソップ!ずり〜ぞ!」


街への方向へ走り去っていくウソップにウキーと叫んでいるキャプテンを、他のクルーが宥めながら次々と船を下りて行く。


「サンジくん悪いわね〜、折角の春島なのに留守番頼んじゃって」
「いいえ〜、ナミさんの頼みならお安いご用ですよ〜♪ゆっくりしてきてくださ〜い。おい、おめぇら、ナミさんとロビンちゃんに迷惑掛けるんじゃねぇぞ!」
「じゃ〜な〜サンジ、行って来るな〜!」


サンジはナミ達に手を振りながら、早々とここから逃げ出すように走って行った後ろ姿を思い出し、甲板に腰を下ろす。

取り出したるモノは、いつものシガレットケース。
煙草に火を着け、深く吸い込む。


「自信無くなるよ、ロビンちゃん…ι」


さっきまでロビンを相手に”独り言”を呟いていた、いや、"愚痴"を零させて貰っていた。


「長鼻君も、ここ数日、おかしな感じがしたけれ
ど?」


そうロビンには励まされたのだが、自分としては全く納得がいかない。

一方的とはいえ、キスまで交わした仲なのにほったらかしはねぇんじゃねぇのっ。

サンジは空を仰ぎ、白い煙と一緒に溜息混じりの言葉を吐いた。


「あれ?ウソップ?」
「よお、チョッパー、ロビン」


下船から数十分後、町中のジャンク屋の前でばったりと出会った。


「ウソップ、何か買ったのか?」
「ああ。あれを修理するための部品が欲しくてな。もう一度、見たいだろ?」
「うん。見たい見たい」
「私も、とっても見たいわ」


ウソップは2人の言葉を聞き、俄然やる気が沸いてくるのだった。


「みんなは?」
「ナミはルフィと一緒、ゾロは解散した時にはもういなかった」
「あれ?じゃ船の見張りは…」
「今日はサンジ。食材は明日、出航前に買いに来るって。俺達はこれから本屋へ行くんだ」
「そ、そうか…」


微笑むロビンと目が合い、思わず真っ赤になるウソップ。


「じゃあな、ウソップ」
「あ、ああ」


ウソップが2人に手を振り、背を向けようとした時、ロビンが一歩近づき、ウソップの耳元で何かを囁いた。


「コックさん、珍しく塞ぎ込んでたわ」
「え?」
「買い物は済んだのでしょ?」
「ロ、ロ、ロビン…、まさか知って…ι」


ロビンはウソップの慌てぶりに笑いながら、チョッパーが手招きをしている方へ歩いて行った。


「どうしろっつうんだよ〜ι」


ウソップは手に持っている紙袋をグシャリと握り締め、船が定着している方向を目掛けて足早に歩き出した。


メリー号の甲板は相変わらず美味しそうな香りが漂っていた。

バタバタバタ…


「ん?」


残った食材を使い、ストック用にシチューを煮込んでいたサンジがキッチンから顔を出すと、男部屋のドアを開けようとしているウソップと目が合ってしまった。


「何だ?忘れものか?」
「い、いや…ちょっとやりたい事があって…」


何も言わないサンジに無理矢理愛想笑いを向け、ウソップは男部屋へ降りて行く。


「またかよ…」


サンジは閉じられたドアを暫く見詰めていたが、噴き零れる寸前の鍋に気付き、慌ててキッチンの中へ戻った。

一通り調理も終わり、少しの期待を抱きながら再び外に顔を出したが、男部屋のドアが開いた形跡はなかった。

サンジは仕方なく階段に腰を掛け、ポケットから煙草を取り出し、火を点けると、ぼんやりとした青空へ向け、煙を吐き続けた。

その一本を丁度吸い終える頃、キィと目の前の扉がゆっくりと開く。

ちらとサンジに目配りし視線が合ったが、ウソップは何も言わず手に抱えているモノを甲板中央へ設置する。
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