novel(long)
□バイトの試練〜願い事
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チョッパーはウソップも小耳に挟んだ事のある、歳の離れたゾロの弟。
ゾロの実母が亡くなった数年後、父は再婚し、ゾロとチョッパーは兄弟となる。
チョッパーは2番目の母の連れ子だ。
初めのうちはなかなか懐かなかったチョッパーも、
血の繋がりや何と言っても他人の事には全く干渉しないという性格が逆に良かったのか、ぶっきらぼうな所があるものの、本当は優しく、面倒見の良いゾロに次第に心を許していった。
だが、その母親というのがクセがあり、若いうちにチョッパーを身籠もったと言う事も理由の一つにもなるのだが、家に何日も帰って来ないと言う事が屡々あった。
それでも、チョッパーという存在が、それまでどうにか引き留めていたのだが、ある日突然、姿を消してしまったのだ。
ゾロにはその理由が解っていたが、チョッパーには解るはずもない。
何日も何日も悲しみに暮れたが、いつも側にゾロがいた事で、チョッパーは次第に元気を取り戻していった。
そして、再び、父親が一人の女性を連れて来る。
その人は"ロビン"と言い、瞳の色と同じ、漆黒の髪の美しい女性だった。
元々、父親は仕事で家を空ける事が多かった為、ゾロ同様、血の繋がりも何も無い奇妙な共同生活となっていった。
ゾロもロビンも口数は少ないものの、自分に優しい2人の事が、チョッパーは大好きだった。
うまくいっていると、ずっとこの生活が続くと思っていた。
が、ある日突然、ゾロが家を出ていってしまった。
何故だか解らない。理由も教えてくれない。
ゾロに戻ってきてもらおうと頼みに行こうと家を出たが、チョッパーはゾロの家を知らなかった。
唯一、ここでアルバイトをしていた事を思い出し、それで今日、この店の前でゾロが来るのを待っていたと言う訳だったのだ。
「そうか〜、やっぱりゾロの弟だったのか。俺はウソップ。よろしくな、チョッパー!」
ウソップが改めてチョッパーの前に手を差し出すと、
チョッパーは慌ててウソップの手を握り返した。
「こちらこそ、よろしくな。ウソップ。…ゾロ、迷惑かけてないか?」
「う〜ん、ま、たまには迷惑かけられてっけど、俺様がいるから何とかやってる。心配すんな!チョッパー」
「おい、おめぇら、何言ってんだっ」
自分の事を好き勝手言っているウソップとチョッパーの会話を相変わらずの仏頂面で聞いていたが、レジに並ぶお客が途切れたと同時に、2人の会話に割って入った。
「チョッパー、俺に言いたい事があるから、ここに来たんだろ?」
ゾロの言葉にチョッパーもウソップも動きが止まる。
チョッパーはちょこちょことゾロの側まで近づき、下からゾロの顔を見上げながら言った。
「おれ…、ゾロに戻ってきて欲しくて…。戻ってきてくれるように頼みに来たんだっ」
「俺は、戻らねぇよ」
ゾロは即答した。チョッパーの顔も見ずに…。
「どうして?おれ、悪い事しちゃったのか?」
ゾロの言葉にしょぼんとしながらも、続けるチョッパー。
大きな瞳から涙が今にも零れ落ちそうだ。
「お前の所為じゃねぇ。俺がそう決めたから、そうしただけだ」
「ほんと?おれの事が嫌いになったんじゃない?」
「ああ」
「じゃぁ、どうして?他に理由があるのか?」
「………」
ゾロは何も答えなかった。
流石にその雰囲気に耐えきれなかったのか、ウソップが間に割って入った。
「チ、チョッパー、ゾロにはゾロの考えがあるんだろ。こんなとこじゃアレだから、また今度にしたらどうだ?あ、ホラ、店も混んできたし…、な?」
ウソップがそうチョッパーを慰めるように頭を撫でてやりながらカウンターの奥の方へと背中を押した。
瞳をうるうるとさせ、しょぼんと椅子に腰を掛けるチョッパーを見てると正直やりきれなくなり、レジを打つゾロを睨む様に見つめるが、ウソップもゾロの性格を良く知っているだけあって、何も出来ない自分が途轍もなく歯痒くなるのだった。