novel(short)
□STAND
2ページ/3ページ
ハアハアと呼吸をする度、胸ん中がズキズキする。
どこをどう走ったのかさっぱりだったが、うまく街の中心に着いたようで、あいつの気配を探しまくる。
数え切れないほどの店を通り過ぎ、街の外れ近くまで来てしまった。
「いねェ、どこ行きやがった?!」
もう一度引き返そうと後ろを振り返る。
視界の中に微かに映った、薄汚れたオーバーオール、でかいバックにクセの強そうな黒髪、横を向けば長い鼻。
クソッ、あんな所にいやがった!
「おい!ウソッ」
「サンジ!!」
俺が叫ぼうとするのと同時にあいつがこっちへ向かって走り出す。
それも、満面な笑顔で。
見付けたら蹴りの一発でもお見舞いしてやろうと思ったのに、反則だろ?そりゃι
ウソップの言い分はこうだ。
「丁度、卵星に使う卵が切れててよ。スーパーならサンジも必ず行くだろうと思って。 でも、朝イチの良いのはすぐに売り切れるだろ?だから、俺だけでもと思って先に行ってたんだ。ロビンに伝言、聞いたろ?ほら見てみろ、お前の分と2パック買えたぞ。俺様に感謝しろよな〜!」
んじゃ、何か?
俺を今日誘ったのって、卵を買うだけの為かよ!
ウソップから卵を受け取り、近くにあったベンチに腰を掛けた。
ポケットから取り出した煙草に火を着け、フーッと煙を噴き上げた。
ぼーっと突っ立ったままのウソップに声を掛ける。
「ウソップ、他にも行きたいとこあんだろ?俺に構わず行って来い」
「え?」
「俺は特にねェから」
そうなんだ、こいつから誘われた事なんて今までだって一度もねェ。
今までと変わりねェじゃねェか。
しばらくしてウソップがこっちに向き直り、口を開いた。
「んじゃ、改めて俺と見て廻らねェか?」
「……」
「スーパーまで全力疾走してきたから、途中の店、どこも寄ってねェんだよ。面白そうな店もあったしよ、変わった食材売ってるとこもあるみたいだぜ?行ってみねェか?サンジ、約束したろ?」
ウソップの笑顔を前に言葉が出て来ねェ。
その代わり、ぶわっと何かが込み上げてくる。
俺は黙って立ち上がり、煙草を足で揉み消す。
「ウソップ、卵、ありがとな」
「あ、ああ、どういたしまして。そんじゃ、行くか!」
これっぽっちの事がクソたまんねェ…
今は礼を言う事だけで勘弁してやるけど、いつか恥ずかし気も無くてめェを抱き締める約束位しても、バチ当たらねェんじゃねぇの?
[end]
→あとがき