novel(event) 

□春の日に
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「リクエストあったら言えよ、描いてやってもいいぜ?」

ウソップがチョークを手に取り、得意気に隣にいる少年に顔を向けるが…

「うんまそ〜〜〜!!!」
「はぁι?」
「この肉食いてェ〜!」

目の前にある、ピンク色のチョークで描かれた骨付き肉の絵にダラダラとヨダレを垂らすこの少年を唖然と見詰めるウソップ達。

少年の友人達は肩を引き上げ呆れ顔だ。

「お前…変な奴だな〜ι絵を見てヨダレ垂らす奴なんかいねェよ普通ι」
「だってよ〜、美味そうじゃん」
「そ、そりゃどうも…ιけど、やっぱ変わってるよ、お前…」

怪訝そうな表情で自分を見詰めるウソップの顔を、今度はジィっと食い入る様に少年は見詰め返す。

「それよりさ、お前のその鼻本物?」
「はぁι?」
「おんもしれェな〜お前」
「この鼻だけで俺を判断しやがるお前がどうだよっ!」

少年の指差すモノはもちろんウソップの特徴ある長い鼻。

今度はウソップの友人達がクスクスと笑いを堪えている。

「俺ルフィ、お前は…ウソップだっけ?鼻に似てウソくさい名前だな」
「絵を見てヨダレを垂らしてるお前なんかに、そんな事言われる筋合いねェ!」

ニシシシと零れんばかりの笑顔を向ける少年に、真っ赤な顔したウソップの鋭い突っ込みがビシッと入る。

「コラ〜!そこだな!!」

先生らしき大人の叫び声と次第に勢いを増す足音に、一同一斉にギクリと肩を揺らす。

咄嗟に窓から外へと飛び出し、一目散に校舎脇を駆け抜ける。

漸く自転車の置いてあった場所に辿り着き、ペダルに力を込め目一杯に踏み込み、 全速力で中学校を後にする。

ウソップ達はいつも仲間と集う公園まで漕ぎ続け、漸く足を止め後ろを振り返った。

自分達以外、誰も付いてきていなかった。

力んでいた体の力を抜き、ホッと息を吐いて、仲間と顔を見合わせ一斉に吹き出す。

「超〜びびった〜!!」
「めちゃめちゃびびったけど、面白かったな!」
「また俺の貴重な寿命が縮ま…あ、やべェι!!」
「な何だよウソップι」

さっきまで汗だくで真っ赤な顔をしていたウソップだったが、見る見る顔が青冷めていく。

「消すの忘れちまった…黒板の絵ι」
「あの恐竜の絵か?いいじゃん別に」
「だ、だってよ…サイン入れて来ちまったし」
「気付かねェんじゃねェ?そんなの。それにあのセンコーが消すだろ?」
「ああいうもんは自分で消すか、俺が心許した奴じゃねェと嫌なもんなんだよι」
「はぁ?何だそりゃ、んじゃもう一遍行くか?」
「いややや…んな度胸ねェよι」

「そういやあいつら平気だったかな?…向こうの学校の奴らだろ?」
「そうみたいだな」
「"秘密基地の探検"って言ってた…」
「ぶっ!考える事同じかよ!」
「にしても、あいつ大ウケしたよな〜。腹減った〜って絵を見て言うか?」
「アホだ〜あいつ!ぎゃはは〜!」

日が暮れつつある中、ウソップ達は今日のこの日の貴重な体験を思い出し、いつまでもいつまでも笑い合った。


数日後に迫る入学式。

ウソップとルフィは再び顔を合わせる事となる。



「なぁウソップ、それって本物だよなぁ?」
「ι…今一瞬、5年前にタイムスリップしたのかと…それともデジャヴか?!てかルフィ、その笑えねェ冗談いい加減ヤメロι」

商品を棚に並べながら、同じ様に、いや、明らかに手を止めているルフィに乾いた突っ込みを入れる。

「つーか、お前完全に手ェ止まってるぞιほら、ゾロが睨んでるぜ」

ウソップの背中越しから顔を覗かせると、レジのカウンターでジロリと睨みを利かせたゾロが目を光らせている。

「なんだぁゾロ、怖ェ顔してるぞ、どうすんだ?ウソップ」
「ってお前にだよ!ったく…バイト始めてだいぶ経つんだから、いい加減に…ルフィ?」

ジィとこっちを見詰めたままのルフィを気に止め、ウソップはしゃがんだ位置からルフィの目の高さに立ち上がる。

「お前の鼻見てると思い出すよな〜」
「へ?」
「あん時の学校探検」
「え?ルフィ…もしかして覚えてんのか?あの日の事」

中学校舎に潜り込み、初めてルフィと会ったあの春休み。

その後、入学式で再会し、いつの間にか親友という関係を確立した二人。

あの日の事をルフィの口から聞いた事がなかったウソップは、すっかり忘れているもんだと思っていた。
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