Novel

□ホスピタリズム
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「あし、もう平気?」

「へーきへーき、だいじょーぶ」

大和は椅子に座って子供みたいに足をじたばたさして
にやっとあたしに笑って見せた。


大和は2、3週間前怪我をした。

それを直人からの電話で聞いたとき
あたしは"またか"と鼻で笑った。

なぜかよく転けやすい大和の足や腕は
いつもちっちゃな打ち身や切り傷があって
治りかけにまた転けるので、無くなることはなかった。

またそんな軽傷で済んでいるのだろう。
ひじかどっかのすり傷でも見せて
バンソウコウをつけてと、甘えるに違いない。…

…と思っていた。

ちらちらひかる救急車の赤いランプをみるまでは。

いつもへらへら笑ってるくせに
苦しそうな大和の顔を見て、ぞっとした。

そばにいた直人も、ただ一転に大和の足を見つめていた。

あたしは、だんだん離れていく救急車を見ながら拳に力を入れた。
大和にしてあげるはずだったバンソウコウがしわくちゃになるくらい。






「近所の子が木ぃ登っててさ。俺にも出来そうだなーてやってみたら、折れた。」

"折れた"。

大和が「あの時は驚いた」みたいな表情で言うから
おかしくてあたしは笑ってしまう。

大和はまだまだ子供だ。

「まあまあ、大事に至らなくてよかったじゃん。入院期間も少なかったし…」

「うん、…でも飯がイマイチ。量が少ないし、味薄いし」


足の治療のことより、ご飯なんだね。
こっちは心配してたってのに、ほんとのんき。

まぁそれはそれで、大和らしくていいんだけど。


「…じゃあ、あたしそろそろ帰るね」

「え、なんで?」

「なんでって、大和の部屋の片付けも済んだし…これから帰って晩ご飯食べないと」

「俺も食べる」、大和はまた足をジタバタさせ始めた。

「さっき、マック寄って買ったじゃない」

「はんぶんこして食べよ」

「いーや、あたしマックよりモス派なの」

なんだよ、その変なこだわり!

大和は頬を膨らませた。


玄関のドアノブに手をかけると、不細工な足音が追いかけてきた。

「…嫌って言ってんでしょ」

「じゃあさ、食べさせて」

「…はあ?」

「木から落ちたとき腕打ったの!痛いの!!だから、食べさせて」

…家に帰るとき、「俺が持つ!」って
自分の荷物全部持ってくれたくせに。…


「ね、お願い」

大和はあたしの背中にぴったりくっついて、耳元で囁いた。




…大和ってこんな甘えん坊だったっけ?
ほんと、これだから子供ってこまる。






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