企画作品集

□朱夏
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「ばかなことを…」
苛々とした呟きに、曹彰は大きな目を更に丸く見開いた。
「あ?何でだよ」
「己が首を絞めるような真似をして…」
「だってさぁ……、俺じゃなかったら、絶対もっと揉めるぜ?」
「そういう問題じゃない、このばかッ!」
気は短いがめったなことで声を荒げたりしない兄に、久々に怒鳴りつけられて、曹彰は唖然としてしまった。
「そうとも、俺の地位は守られた、だがお前はどうなる!?そこまで考えてなかっただろう、ばか!」
「ば、ばかって言うなよ!……そりゃ、兄者とか植に比べたらばかだけどよ……でも、俺だって頭ひねって考えたんだぞ!」
「だから、ばかなんだ!毎日毎日、お前を“今のうちに始末しろ”と言われる俺の気持ちがお前にわかってたまるか、ばかっ!」
はたと曹彰が動きを止めた。
曹丕も口を噤んだ。
居心地の最悪な、重い沈黙に耐えかねたのは、やはり曹彰のほうだった。
「……ごめん…そこまでは考えてなかった……」
「…そうだろうとも」
「俺は、兄者を助けたかったんだ、本当に…それだけだ…」

誰かが大葬の混乱に乗じて魏王に祭り上げられ、璽綬を奪うようなことがあってはならない――その前に、政争には縁遠かった自分が警告すればいい。
そう考えた。

だが、黙って聞いていた曹丕は、厳しい表情を崩さなかった。
「自分も同じように“権力を有する者”で“祭り上げられる地位にある者”だと、思わなかったか」
頭を殴られたように、目の前が真っ白になった。
「……思って、なかった…」
思えるはずがない。
だって、そうなのだ。
どんな地位にあっても、頭だつ自分が決めていれば、自ずと周りも定まる――組織とはそんなものだと考えていた。
「俺は、そういうのに興味ないし……みんな、そういうことはわかってるはずだろ?」
「彰」
「俺が――」
「俺たちが望もうと望むまいと、もう俺たちの立場は普通じゃない。俺たちが仲むつまじくあろうとしても、周囲がそれを望まなければ、俺たちは争うことになる」
「…わかんねえよ…そんなの」
「わかれ。高い地位にある者の定めだ」
な、と、くせっ毛をわしゃわしゃかき回された。
そういう親しさは昔とまったく変わらないのに。

「なんか…兄者の言ってることが遠すぎてさ、……兄者が雲の上に行っちまったみたいだ…」

一瞬、曹丕の表情が真顔になった。
そして、やっぱり、苦笑まじりに髪をくしゃりと撫でられた。
「その図体でしょぼくれるな、情けない」
そう、笑ってくれる兄のことは、やっぱり大好きだと思った。
その笑顔が、今までより少し、遠いものに思えたとしても、彼は彰にとって、やはり大好きな兄のままだった。







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