夢溜まり
□赤ずきん
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それから、本当に少しで目的地まで到着した。
目の前に建つ1人で住むには少し大きな一軒家の、木製のドアをノックする。
「お兄ちゃーん、来たよー」
声をかけて少し待つと、ガチャリとドアが開いた。
「よく来たね。あがってって」
「うん。あとね、ママからの果物がちょっと潰れちゃった…」
「別に大丈夫だけど…。何かあった?」
「…ちょっとね」
籠を渡してからテーブルに着いた。
コケかけたなんて恥ずかしくて言えないから、返事を濁しながら。
「変な奴にあったりはしてないよね」
「え?…うん」
心配性な兄にうなずきを返した。
あの人は、別に変な人じゃないよね。助けてくれたからむしろ恩人だし、格好良かったし。
だから、お兄ちゃんに言う必要はたぶんないはずだ。
「ねえお兄ちゃん。薬作り手伝おうか?」
「じゃあ、頼もうかな。そうだな……コレ、煮詰めておいて?」
「OK、わかった」
それから、頼まれたことのためとプラスαの兄の夕飯のための準備をテキパキと済ませ、さっそく鍋を火にかけた。
澄んだ水に薬草が浸された鍋と野菜を放り込んだ鍋を温めながら、何故だかあの人のことを考える私がいた。
何かお礼がしたいなという思いが無性にして、会えるかわからないという事態が胸をきゅうっと締め付けた。
「……?」
感謝だけじゃない、微妙な違和感が一緒なこの気持ちは、何だろう…
「どうかした?珍しいね、ボーっとして。薬草、見ててくれないと」
「あ…うん、ごめん」
「で、どうかしたの?」
トントンと肩をたたいてきた兄にちゃんと反応を返すと、心配そうな表情を向けられた。
「ううん、ちょっと考えごとしてただけだよ」
「……困ってたら言いなよ?なんとかしてあげるからさ」
「ありがと。でも今は大丈夫だよ」
「そう」
「うん」
私と向き合っていたお兄ちゃんが自分の作業に戻っていった。私も鍋と向かい直る。
野菜の方を沸くまで待ちながら、薬草の方をゆっくりとかき回す。そんな、体に染み込んだ行動をこなす。
「……」
別に、困ってるわけじゃない。
ただ、何故だか望んでしまうだけ。
できるなら
彼にまた 逢いたい
fin.