夏目友人帳夢小説
□出会い
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第一印象は淡い。
私は人間観察が得意な訳じゃないから、ぶっちゃけ淡い以外の印象はない。
確か、雪が溶け始めた頃。
私はお父さんの転勤の関係で小学生になるまで過ごした町に、また帰ってきた。
家が近所の藤原さんには、とてもお世話になっていたから、私は会いに行った。
話に聞いていた夏目君。
ちゃんと挨拶出来るかな?とか、そんなことを考えながら。
玄関先で自己紹介。
「はじめまして、夏目君、佐伯となりです。よろしくお願いします」
そう言って、愛想を振り撒く。愛想笑いではないと胸を張って言える。この人からは[嫌な感じ]がしないから。仲良くなりたいという直感的な行動だと言い切れる。
ペコリと頭を下げると、向こうもペコリと頭を下げる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
彼は何処か、緊張に満ちた面持ちだった気がする。
「あ、お近づきの印に」
そう言って、手に持っていた袋を渡す。
「あ、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ」
我ながら年寄りじみた返事だと、心の奥底で少し自嘲。
「酒?」
「夏目君は呑めないだろうけど…[五月雨]は今、鬼灯がハマっているお酒だから、きっと美味しいよ」
夏目君は明らかに困惑している。でも私は、続ける。
「ネコちゃんはお酒が好きじゃない?」
突然、夏目君は顔が青くなった。
「それは、どういう…」
何かまずいことだった?
「とりあえず、場所を変えていいかな?」
彼は取り繕うように笑って、外に出てきた。あ、ネコちゃんがついてきている。
「この辺でいいかな?」
人気のない川辺りで夏目君は口を開いた。
「どうして佐伯さんは猫が酒を呑むと思ったの?」
「鬼灯(ほおづき)が、斑は酒好きだって言ってたから」
別におかしなことはない。
「このネコちゃんは斑さんなんだよね?」
夏目君はみるみる顔が青くなっていく。玄関にいた時よりも真っ青。
「大丈夫?」
「…佐伯さんは、人間?」
苦しそうに疑問を投げ掛ける夏目君。
「?私は人間だよ?おかしなこと訊くんだね」
私がフフフと笑っても、夏目君は表情を和らげることなく―
「妖が…見える?」
「見えないよ?けどね、今、ここに白い長い髪をしてて群青色の着物を着た人いるよね」
私の右隣。何もない空間を見つめる夏目君。
「……いる」
私は「やっぱり」と笑う。
「目はルビーみたいにキラキラしてるんだよ、妖ってよくお面してるじゃない?だから屋台で仮面ライダーのお面買ってきたら気に入ったみたい、今はお面してる?」
「してない」
「素顔は礼儀だとか、そんな理由だと思うよ、ところで、斑さんは喋らないの?」
私は屈んでネコちゃんに目を合わせる。
「鬼灯とはあの鬼灯か?」
ネコちゃんが喋った!!
「うわぁ!!言ってみるものだね!まさかホントに喋ってくれるとは思わなかったよ!!」
私はネコちゃんを抱えて撫でまわす。
「ぬわっ!?にゃ、何をする!小娘!!」
「つるふかつるふかー!ブサカワいいよー!」
あまりの気持ち良さに頬擦りしてしまう。子供のようにはしゃいでいると―
「佐伯、止めてあげてくれ」
夏目君が困った顔をこちらに向けている。渋々ネコちゃんを地に降ろす。
「あ、斑さん、いくら私が美味しそうだからって食べないでね」
「いくら私でも鬼灯のようなタチの悪いものに手は出さん」
「2人共、勝手に話を進めないでくれ、俺にもちゃんと説明してくれないか?」
私は困惑顔の夏目君に笑いかけて―
「じゃあ、今日、夢に呼ぶよ」
そう言って、呆ける夏目君を置き去りにして鼻歌混じりに家路を辿った。