戦国おとぎBASARA

□珍説・シンデレラBASARAside(完結)
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 さてその頃、舞踏会の会場では、若い娘達が噂の王子様を取り囲んでキャーキャーと黄色い声をあげていました。
 しかし、当の王子様は、自身を取り囲む娘達の熱い視線も黄色い声援にも、その凛々しい面差しを全く変えず、凛然と舞踏会の様子を眺めていました。
 すると、紫の絹地に黒のレースやリボンをあしらったドレスを纏った色白でガチムチマッチョなお姫様が王子様の元へ焼酎の逆瓶片手にやって来ました。
 真っ赤な薔薇の花の髪飾りを付けた銀の髪がキラキラと光っていました。
「ようサヤカ!シケた面してアダッ!?」
 紫のお姫様が逆瓶を持った手をあげて親しげに声をかけたその瞬間、紫のお姫様の額に角砂糖が見事にクリーンヒットしました。
 王子様が手近に用意されていたティーセットの角砂糖を、指で弾いて紫のお姫様にぶつけたのです。
「なにしやがるサヤカ!」
「このカラスめ、その名で呼ぶなと言っているハズだ。相変わらず物覚えが悪いぞ姫若子め」
「姫って呼ぶんじゃねぇ!」
 と、紫のお姫様は怒鳴りました。
「カラスめ、今のお前は姫以外の何者でもない。わかったらその名で呼ぶな姫」
 紫のお姫様はぐぅの音も出ず押し黙りました。
「まぁまぁ孫市、せめて鬼若子って呼んであげなって」
 と、羽を差したポニーテールが特徴的な、派手で個性的なドレスを纏ったやっぱりガチムチマッチョなお姫様がやって来て言いました。その肩には、なぜか可愛らしい小猿さんが一匹乗っています。
 二人のお姫様を交互に見つめた王子様は、淀みなく言い放ちました。


「ならば、元親は姫鬼、前田はお祭姫でいいな」


 と―…


「「何でだよッ!?」」


 と、王子様に姫鬼とお祭姫と評されたお姫様達は言いました。
「自分達の格好をよく見ろ。姫と言わずになんと言う?そもそも、女役なのだから姫と言われても文句はあるまい。むしろ褒め言葉と受け取れカラスども。お前達の体格では姫と名乗るのもおこがましいと知れ」
 と、王子様は容赦なくズバズバと二人に言い放ちました。
 余りの容赦なさに、二人はすっかり意気消沈してしまいました。
 ガチムチマッチョな自分達がお姫様と程遠いことなど、改めて王子様に言われるまでもなく十二分にわかっています。
 ですが、そんな二人にも王子様は更に容赦なく言い放ちました。
「去れ、私には女装した筋肉達磨を愛でる趣味は無い」


 と―…


 ひ、ひでぇ…
 二人のお姫様は泣きたくなりました。
「ははは、相変わらず手厳しいな孫市」
 と、二人のお姫様と同じくガチムチマッチョな体躯の上に輝くばかりの黄金のドレスを纏った爽やかな笑顔のお姫様が側を通りかかって言いました。
「フン、徳川の権現姫まで来るとはな…いよいよもってむさ苦しい」
 と、王子様はその涼しげで凛々しいお顔立ちに僅かに険を乗せて言いました。
 それもそのハズ……いつの間にやら、王子様の周りには、むさ苦しいガチムチマッチョなお姫様が三人も詰め掛けているのですから。
 その余りのむさ苦しさに、正統派の可愛いお姫様は(いろんな意味で)全く近付いて来ませんでした(当然)。
 これで芝ワンコによく似た某熱血お姫様がいれば完璧なのですが、幸か不幸か…、熱血お姫様は舞踏会のお料理に夢中で王子様どころではありませんでした。
 せめて、あちらで華麗なタンゴ(ワルツは?!)を踊っている二人組―――隣国の仮面の王子様と、人間とは思えないゴリラのような体格のお姫様のカップル―――を、キラキラとした目で見つめている背中がばっくりと開いたセクシーなマーメイドドレスを纏った尖った髪型のお姫様だったら、まだ王子様も傍に置いて愛でよう気にもなったことでしょうが…
 いい加減辟易した王子様が麗しいお姫様ならぬ、むさ苦しい野郎共を追っ払おうと角砂糖を構えたところ、俄かに舞踏会会場がざわつきました。
 怪訝に思った王子様が会場を見回して見ると、煌びやかな青いドレスを身に纏った美しいお姫様が会場に入って来たところでした。

 
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