戦国おとぎ無双
□珍説・シンデレラ無双サイド
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昔々ある国に、秀吉という裕福だけど美人に弱い陽気な商人の男ががいました。
秀吉は、働き者の妻ねねと、一人娘の三人で(時々ねねにフライパンでシバかれましたが)仲良く暮らしていました。
―――ところが、それまでの苦労が祟ったのか、突然の病でねねは亡くなってしまいました。
秀吉は嘆き悲しみ、その心の穴を埋めるように新しい妻を娶りました。
この新しい妻は、秀吉の娘より年上の二人の娘を連れて来ました。
二人の娘と新しい妻は、秀吉の前では優しくたおやかな振る舞いをしましたが、秀吉の前妻の娘に対しては影で意地悪をしていました。
そして、数年後に秀吉も流行病で亡くなると、娘は継母と義姉達の召使いにされて朝から晩まで働かされることになってしまいました。
三人は、そんな娘を蔑んでシンデレラ(灰かぶり)と呼びました。
まあ、なんて可哀想なシンデレラ!
可哀想なシンデレラは、今日も今日とて、三人の我が儘に振り回されていました。
「…………で、なぜ俺がシンデレラなんだ?」
と、可哀想なシンデレラこと石田三成は、いつもの扇子ではなくハタキをパタパタさせながらぼやきました。
「言うな三成、俺だって好きでこんなことをしてるんじゃない」
と、意地悪な姉その一の加藤清正が苦々しく言いました。
ヴィクトリアン調の美しいドレスが、その逞しい二の腕によってギッチギチになっています。
二人が上記のような会話をしていると、
「うおらぁ――ッ!頭でっかちぃ〜!キビキビ働け〜!さぼんじゃねぇぞぉ!!」
「三成よ!義と愛の為に働くのだ!」
と、意地悪な姉その二、福島正則と、意地悪な継母の直江兼続が現れて言いました。
そこそこな出来映えなinヴィクトリアン調貴婦人スタイルな兼続に対して、正則は見るもおぞましい出来映えで、書く気にもなりません(ファンの皆さんごめんなさい!!でも、橘は正則も好きですよ―ッ!!!)。
「うっせぇ―ッ!俺だって好きでこんな格好してんじゃねぇかんなッ!!」
そうです。別に彼らは好き好んでやっている訳ではありません。
彼らがなんでこんな格好をしているかと言うと、貿易によって南蛮のおとぎ話集を手に入れたおねね様によって、半ばというかほぼ強制的にその劇をやらされている為でした。
ちなみに、この時代に『シンデレラ』のお話が既に確立されていたのかどうかはスルーな方向でお願いします☆
三人がグチグチ言っていると、継母役の兼続から檄が飛びました。
「コラ!ねね殿の愛の劇場の最中に無駄口を叩くとはなんたる不義!」
愛の劇場……?
三人は、なんと言われて兼続がこの劇に引っ張り出されたのかわかった気がしました。
さてさて、脱線に次ぐ脱線につき、話が大きく停滞していましたが、実は今夜、お城で舞踏会があるそうです。
何でも、その舞踏会は、王子様の花嫁探しも兼ねているそうで、国中の未婚の娘に招待状が出されました。
勿論、シンデレラの家にも送られて来たのですが、着て行くドレスも、履いていく靴もないシンデレラは、家に置いてけぼりにされてしまいました。
ああ、なんて可哀想なシンデレラ!
と、思いきや…
「フッ、これで静かになった」
と、シンデレラは悲しむどころか清々したと言わんばかりにそう言いました。
と、その時―…
「ああ、可哀想な三成ど……ではなくシンデレラ、わたしのまほうであなたをぶとうかいへいけるようにしてあげましょう…」
突然、槍を持った赤が似合う爽やかな好青年の魔法使いが現れて、とっても棒読みに言いました。
「幸村……お前もか…」
と、シンデレラは言いました。
魔法使いこと真田幸村は、「はい…」と、力無く応えました。
「兼続殿とおねね様に、義と愛の為だと半ば強制的に…」
「おねね様…兼続…」
二人は同時に溜め息を吐きました。
「ハッ!いけません!このままでは劇が進みません!」
「そうだ!いつまでもこんなくだらないことをしてはいられない!幸村!早く!早く台詞を言え!」
「次は三成殿、あ、いえ、シンデレラの台詞ですよ!」
「なに?!…台本…台本…」
ペラペラ…
台本を確認したシンデレラは、魔法使いに「アナタは誰?」と訊ねました。
「ワタシハマホウウカイ、カワイソウナアナタヲブトウカイ二…」
「待て幸村!台詞が棒読みだぞ?!」
黙って聴いていたシンデレラですが、魔法使いの余りにも棒読みな台詞に我慢出来ずツッコミを入れてしまいました。