戦国おとぎBASARA
□六本爪の竜神
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※設定の都合上、政宗様は隻眼ではありません。
昔々ある山奥に小さな村があった。
痩せた土地に細々と立つ小さな村で、人々は貧しい暮らしの中ひっそりと暮らしていた。
村のそばには大きな湖があったが、この湖から生活の糧を得ることは出来なかった。
この湖には酷い毒気があって、魚は住めず、草木は枯れ、飲めば死にいたった。
それは湖に住む年経た黒い大蛇(おろち)が撒き散らす毒気で、お陰で、周りの土地は痩せ、人々は苦しい暮らしを余儀なくされた。
しかも、村は毎年、村の若者を生贄としてこの大蛇に捧げねばならなかった。
捧げねば大蛇は湖の水を溢れさせ、村や畑を水浸しにして、ただでさえ痩せた土地を益々使い物にならなくするのだ。
さて、今年も生贄を選ぶ日がやって来た。
息を潜めてその時を待つ村のある家の屋根に、選定の白羽の矢が突き刺さった。
その家には、お市という村で一番美しい娘がいたが、来年の春、麓の町の裕福な家に嫁に行くことが決まっていた。
しかし、大蛇の命には逆らえないと、お市は無理やり大蛇の生贄にされることとなった。
逃げられないよう村外れの古い社に閉じ込められたお市が、一人シクシクと泣いていると、
「Hey.何をそう泣いてやがる?」
と、自分以外誰も居ないはずの社の暗がりから若い男の声がした。
「だれ?」
驚いた市が暗がりに問うと、サーッと社の崩れた天井から月明かりが差して、月光に白く声の主が浮かび上がった。
少し癖のある髪に、涼しげな切れ長の双眸、月明かりに照らされたかんばせは秀麗だった。その腰には、六振りの刀が黒い鞘に収められ、月光に鈍く光っていた。
「アナタ…誰?」
再度、市は問うた。
「人に名前を訊くなら、まずテメェから名乗りな」
と、若者は言った。
「市…」
と、市は名乗った。
「Hum…で、市、何だってアンタはこんなところで泣いてやがる?」
と、自身は名乗らずに青年は続けた。
「市は…明日、死ぬの」
と、市は言った。
「死ぬ?」
青年は柳眉をひそめた。
「何でだ?」
「明日…湖の黒大蛇の生贄にされるの…」
「黒大蛇?」
と、青年が問うた。
「湖に住む黒い大蛇。湖を毒で侵して死の湖にしてしまった」
「Hum…で、それで何でアンタがソイツの生贄にならなきゃならねぇんだ?」
「毎年、この時期になると、村の若者が一人生贄として大蛇に召し出されるの。それに応えないと、大蛇は湖の水を溢れさせて、村や畑を毒の水で埋めてしまうの…そうなったら、みんな生きていけないから…」
「だから、今年はアンタが生贄に選ばれた」
市はコクっと頷いた。
青年は「Shit」と小さく毒づいた。
「俺が寝ている間にやってくれるぜ」
と、低く唸る青年の声は市には聞こえなかった。
「もういいの…市は諦めてるの…」
溜め息のように零れ落ちた市の言葉に、青年は低く言った。
「諦めちまっていいのか?」
「だって…もうどうしようもないんだもの…」
市はうなだれて言った。
「俺がどうにかしてやる」
と、青年が言った。
「え…?」
「聞こえなかったのか?俺がどうにかしてやるって言ったんだよ」
すると青年は、閉ざされた社の入り口につかつかと歩み寄って言った。
「下がってな」
青年は、腰の刀六振りを一息に抜き放った。
「何をするの?」
と言う市に、青年はニヤリと笑みを閃かせた。
バチバチと音がして、青年の刀に青い雷が纏わりつく。
「っ?!」
息を呑む市に、青年は言った。
「見てな。…PHANTOM DIVA!!」
轟音が轟き、扉が砕け散った。
「ヒャアァアアア?!なんだテメェは?!なにしやがった?!」
と、見張りの村の男が腰を抜かして叫んだ。
青年は抜き身の刀を男に向けて言い放った。
「長老の家まで案内しな。俺が大蛇を退治してやる」