戦国BASARAかってに外伝

□キミの笑顔が見たいから
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 庭を眺めていた輝宗は、「はぁ…」と溜め息を吐いた。
 麗らかな天気なのに、輝宗の心は些かも晴れない。
「殿!」
「左月か…」
 廊下を此方へ歩いて来るのは、重心の鬼庭左月だった。
「良い天気ですな…」
 左月は「失礼致しますぞ」と言って輝宗の横に腰掛けた。
 二人はしばらく無言だったが、やがて左月の方から、
「その後、梵天丸様のご様子は如何ですかな?」
 と切り出した。
 輝宗は、溜め息を吐いた。
「変わらん。部屋に閉じこもったまま…。会いに行っても、ワシの顔すらまともに見ようとせぬ。それでいて、いつも寂しそうにしておるのが哀れでならん…」
 輝宗は、またも溜め息を吐いた。
 輝宗の心が晴れない原因はこれだった。
 輝宗の嫡男梵天丸が疱瘡に罹患して右目を喪失してから早一年。
 それまで利発で明るい子供だった梵天丸は、すっかり暗い性格になってしまった。
「左月…どうにかならんか?」
 左月は一拍置いてから言った。
「奥方様はどうしておられます?」
「…此方も相変わらずよ」
 梵天丸の母義姫は、梵天丸が隻眼となって以来、梵天丸を避けている。
「一番の原因はそれでしょうな…。若君は数えで六つ、まだ、母親が必要なお年頃でしょう」
「ワシもそう言っているのだが、アレはいっこうに変わる気配を見せん」
 輝宗は、今日何度目かわからぬ溜め息を吐いた。
「フム……では、仕方ありませんな…」
「は?」


 
 それからしばらくして、梵天丸の居室に左月の姿があった。
「梵天丸様、ご機嫌如何ですかな?」
 梵天丸は、俯いてオドオドと左月を見上げた。
「梵天丸様、ご挨拶なさいまし」
 と、乳母である喜多は、梵天丸を優しく促した。
「喜多、良い良い。梵天丸様、今日は母君がお見えになっておられますぞ」
 その言葉に、初めて梵天丸は顔を上げた。
「母上が…?」
「はい。…奥方様」
 左月の背後の障子が、スッと開いた。
 その『奥方様』の姿を見た瞬間、喜多は絶句し、梵天丸は無言で立ち尽くした。
「梵天丸や〜、さぁ、ワシ…いや、ワタクシの胸に飛び込んで参れ…ゲフン…飛び込んでいらっしゃぁい」
 ケバい化粧と、一目で女物とわかる派手な着物を纏った輝宗が両手を広げて立っていた。




 時はしばらく遡る…




「なにっ?!ワシに女の格好をせよとなっ?!」
「いかにも」
 左月は力強く頷いた。
「断じて断る!城主がそのような真似が出来るか!」
「殿…梵天丸様は、母の愛に飢えておられるのですよ?奥方様にその気がないのでしたら、殿がやるしかありますまい」
「だとしても何故女装せねばならんのだ!?」
「お忘れですかな殿、梵天丸様は『母の愛』に飢えておいでなのですぞ?ただの女装ではありませぬ。『奥方様に変装する』のです」



 
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