戦国BASARAかってに外伝

□綱元的若君様の育て方
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「今夜はオレを好きにしていいぞ」



 と、齢九つの梵天丸に言われた時、小十郎の全身に尋常ではない衝撃が走った。


 ダダダダダダダっという盛大な足音に、綱元は「なんだぁ?」と呑気な声を出した。


「つぅぅなぁぁもぉぉとどぬぉぉお!!!」

 後の真田幸村も真っ青な大音声かつ、なんだかとっても切羽詰まった絶叫を轟かせながら彼の義理の弟である小十郎が廊下を爆走して来た。

「ど〜も〜小十郎〜」

 果てしなく呑気な口調で綱元は言った。
 小十郎は、彼の目の前で急停止した。
「どうしたのよ〜そんなに慌てて」
 あっけらかんとしている綱元に対して、小十郎は湯気を出さんばかりの勢いで顔を真っ赤にし、ゼェゼェと肩で息を吐きながら言った。
「綱元殿!」
「はいは〜い」
 その余りにも軽い返事に、小十郎はガクッとなった。
 なぜこれが己の義兄なのだ……いや、今はそんなことはどうでもいい。
「アナタという方は…梵天丸様に何を教えているのですかっ?!」
 今にも頭を抱えんばかりの勢いで小十郎はそう言った。


「今夜はオレを好きにしていいぞ」


 婀娜っぽく体をくねらせ、伺うような上目遣い(小首を傾げるオマケ付き)で幼い主にそう言われた時、我が身を尋常ではない衝撃が駆け巡った。
 今夜は好きにしていい?!誰を?!梵天丸様を?!好きにしていいって…それはつまりそういうことかァァァアア?!
 ま、まさか…梵天丸様は齢九つにしてそっち方面に目覚めてしまったというのかっ?!!!!
 雷に撃たれたかと思う程の衝撃だった。
 て言うか誰だ?!梵天丸様にいらぬことを吹き込みやがったのは?!
「どうした?」
 三拍程固まっていた小十郎は、梵天丸の言葉で自我を取り戻した。
「な…何でもありませぬ。して、梵天丸様」
 小十郎は、かなり引きつった笑顔で誰にこんなことを教わったのかと梵天丸に訊いた。が……返って来た答えに、小十郎は真っ白になった。

「綱元!」

 無邪気な主は、ともすれば盗んだ軍馬で走り出す荒くれ者共もとろかす愛らしさで言った。


 つ、綱元殿ぉぉお―――っっっ!!!!


 とりあえず梵天丸に断ってから、小十郎は綱元の部屋まで全力疾走した。


「アナタという人は!いったい何を考えているのですかっ?!」
「だ〜って、若様が“小十郎を喜ばせたい”って言うから」
「喜ばせたい?!」
「うん。いつも小十郎に甘えてばっかりだから、自分も小十郎になんかしてあげたいんだって。いや〜可愛いよね〜、健気だよね〜」
「梵天丸様がその様なことを…」
「うん。だから“こう言えば小十郎は絶対喜ぶよ”って教えてあげたの」
「何でそうなるのですか?!」
「ありゃ〜?嬉しくないの?」
「複雑です!」
 小十郎は正直な感想を述べた。
 幼い主が自分の為に何かしたいという気持ちは純粋に嬉しい。…嬉しいのだが、その方法が大問題だ。
「ふ〜ん…輝宗様が聞いたら泣いて喜ぶと思うけど」
「………」
 梵天丸を目の中に入れても痛くないほど愛している輝宗にそんなことを言ったが最後、まず間違いなく輝宗は滂沱と涙を流し、喜びのあまり踊り出すだろう。
 むしろ、嬉しさの余りショック死するかもしれない。
「いろいろ危険です。間違っても聞かせてはなりませんね」
 小十郎は心の底から言った。
「…って、そうではなく!相手がオレだから笑って済ませられるのですぞ?!梵天丸様に悪い影響を与えないでいただきたい!」
「大丈夫だって!今にきっと若様の役に立つって!」
「どんな役にですか?!」
 綱元は顎に手を当ててまじめ腐って言った。
「若様は、こんな北のはずれの田舎大名で終わる器じゃあない。今にきっと天下に名を轟かす武将となるだろう。そん時、この綱元の伝授した“野郎を落とす手練手管”は大いに役立つはず。そん時には、今はちっちゃな若様も、無意識に色気放っちゃう細腰美人になってるだろうから効果絶大威力抜群。若様の色気に当てられた哀れなコヒツジ達が群れを成して若様に群がり…あ、いや、平伏すだろう!天下も統一出来て一石二鳥!俺ってスッゴ〜イ!綱ちゃん天才!そして、若様の名は、戦国最強の色気の持ち主として世に語り継がれるのだ!」
「なに馬鹿なこといってんですか?!」
 小十郎は、思わず仁義無きツッコミを入れた。
 
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