戦国BASARAかってに外伝
□独眼竜と権現3
1ページ/1ページ
『奥州筆頭』伊達政宗の居城、料理好きの彼の為に特別に設えた彼専用の台所にて、
「まだか〜独眼竜〜?」
「まだだ」
「梵〜!まだ〜?」
「まだだ」
というやり取りが繰り返されていた。
「ねぇ、梵〜」
「なぁ、独眼竜〜」
何度目かわからぬそのやり取りに、さすがに政宗の我慢も保たなくなって来た。
「Shut-up!まだだっつってんだろ!」
と、政宗は台所にある土間で先程からまだか?まだか?と繰り返す二人に言い放った。
「だってさぁ…俺も家康も腹減ってんだもん…なぁ家康?」
と言ったのは、政宗の従兄弟である伊達成実。それに応えるように、成実の隣に座る少年の腹が盛大に鳴った。
「ああ、もう腹が減って死にそうだ…」
と少年は応えた。
彼の名は徳川家康。三河の主、歴とした大名なのだが、時折、部下である本多忠勝に乗り奥州は政宗の元を訪ねて来るのだ。そのたび家康を気に入っている成実に稽古に連れ出され、こうして二人共々腹ペコのヘトヘトになっているのだが。この二人、稽古の後に必ず―…
「ぼ〜ん!」
「独眼竜〜!」
「「腹(が)減った〜〜〜っ!!!」」
と、政宗に手料理をせがむのが習慣になっていた。
…というのも、一番初めの稽古の際、加減を知らない成実が、家康を傷だらけのヘトヘト(ついでに腹ペコ)にし、家康が悔し泣きしているのを見かねた政宗が、家康の手当てと慰めの意味も込めて手料理(ずんだ餅)を振る舞ったのがそもそもの始まりである。家康は政宗の手料理が大層気に入り、奥州に来る度せがむようになった。
それを見た成実が「ズルイ!」と言って加わり、こうして政宗は、今も二人分の料理を作っている真っ最中なのである。
「ったく、辛抱がねぇなぁ」
「梵に言われたくないよ…」
零す政宗に、成実が言った。
「よし、成実の分はナシだな」
「わ――っ!ごめんなさ―い!」
という二人のやり取りを家康は羨ましげに見詰めた。
いとこ同士とは言え、主君と家臣である二人の砕けた関係が家康には羨ましかった。
ただしそれが、一国の主でありながら気安く主君に話しかける家臣がいる政宗に対してなのか、それとも、政宗に気安く話しかける成実に対してなのか、その時の家康には判断つかなかった。
数年後――…
「Hey家康…」
「ん?どうした?」
「…離れろ」
「嫌だ」
「…集中できねぇ」
「ワシは集中できる」
「………」
あれから数年後、小柄だった家康は心身共に逞しい青年へと成長を遂げた。
どれぐらい逞しいかと言えば、そう、料理中の政宗を背後からすっぽり抱きしめられる程に。
されてる政宗はたまったもんじゃない。 しかもただ抱きついているならまだしも(まだしも?)、家康は背後から政宗に抱きつきながら、政宗の髪に顔を埋めたり、腰や脇腹をさすったりとやたらとスキンシップ(ていうかセクハラ)をしてくるのだから尚更たまったもんじゃない。
「No kidding!いい加減にしろ家康!」
たまりかねて、政宗は背後の家康を怒鳴りつけた。
だが、振り向きざまに合った家康の目が此方まで切なくなるような哀切の色を帯びているのを見て、思わず政宗は独眼を瞬かせた後まじまじと家康を見つめてしまった。
「家康?」
「独眼竜…」
「ちょ?!オイ!!」
更にギュッと隙間なく密着、というか抱き締められて政宗は狼狽した。
「wait!!家康!」
「独眼竜」
「Ah?!」
舌打ちする勢いで返した政宗に、家康は静かに言った。
「ワシは、ずっとこうしたかったのだ」
「い、家康?」
目をパチクリしながら、ついでに抵抗も止んだ政宗を抱き締めながら家康は更に言った。
「すまん。暫くこうさせてくれ…」
幼い頃からの願いだった。
いつか彼より大きくなって、その思ったよりも細い体を抱き締めたいと―…
あわよくば自分だけのものにして一生閉じ込めてしまいたいと、己の成長と共に歪んだ感情を伴いながら―…
でも、彼を愛する人は大勢いるし、彼が愛する人も大勢いる。
今、彼を抱きしめる己もその一人なわけで…
何より、彼がそれを望まないから、今はただ抱きしめるだけで我慢しよう―…
今は。
でもせめて、その「今」だけは、己一人の腕の中に独占させてくれないか―…?
お前という、愛しき存在を―…