戦国BASARAかってに外伝

□独眼竜と権現4
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「Ah―…泣くなよ家康…」

 と、政宗は、泣きべそをかく目の前の少年に困ったように言った。

「な、泣いてなんかいねぇ!!」

 と、少年…家康はしゃくりあげながら強がりを言った。

 三河の主徳川家康と、奥州の主伊達政宗の間に同盟が結ばれたのはつい数刻前だった。
 家康は、対武田対策の一環で政宗に同盟を申し入れて来たのである。
 その同盟調印の為に、家康は部下である本多忠勝に乗り遠路はるばる訪ねてきたのだが……ちょっと問題が起きた。
 元凶は、政宗の一つ下の従兄弟、伊達成実である。
 調印後、せっかくだから泊まれという政宗の言葉に従った家康は、政宗より屋敷の案内を仰せつかった成実と話すうちに意気投合し、共に鍛錬をすることとあいなったのである。が……成実は『知の小十郎』『政の綱元』と言う伊達軍でも知勇誉れ高き二人の武将と共に『武の成実』として『伊達三傑』に列せられる武士(もののふ)である。鍛錬と言えど成実に拮抗出来るような強者は伊達軍内でも政宗・綱元・小十郎を含めた数名しかおらず、結果、家康は伊達軍随一と称される馬鹿力によって散々振り回され、身体中傷だらけの痣だらけにされてしまったのである。
 しかも当の成実に、これでも加減していると言われてしまえば立つ瀬なし。
 身体と共に自信も大きく損なわれてしまった。
 見かねた政宗は、成実を鉄拳制裁で黙らせてから家康を回収し、とりあえず傷の手当てをしているという訳である。
 家康は鍛錬で成実についていけなかったのがよほど悔しかったと見え、現在、悔し泣きの男泣きの真っ最中なのである。
 そんな家康に、(何せ原因が己の従兄弟で部下なので)何だか罪悪感が沸き起こって来た政宗は、
「Ah―…sorry家康、わざわざ三河から来てくれたってのにな…」
 と、誤った。
 それを聴いた家康は、鼻をスンッと啜ると、
「何を言う独眼竜、元はといえば未熟なワシがいかんのだ。お前が誤ることはない。それに、今は成実殿の方が強いが、いつか成実殿よりも強くなって成実殿を見返してやるからいいんだ」
 と、真っ赤に晴らした目を真っ直ぐ政宗に向けて言った。
 その姿に、かつて小十郎に師事していた頃の己を重ねた政宗は、苦笑を漏らしてから家康の頭をグリグリ撫でた。
「な?!や、やめねぇか独眼竜!!」
 家康は憤慨したが、政宗はカラカラ笑って気にしなかった。
 笑いながら政宗は思った。

 コイツは“デカくなる”。

 肉体的な意味ではなく、“大物になる”という意味で。
 何より、この負けん気と潔さは賞賛に値する。

 ひとしきり家康の頭を撫でていた政宗は、ふと思い立って家康にこの場で待つように告げた。
 怪訝な顔で頷いた家康を残して部屋を後にした政宗は、暫くすると手に何やら料理の乗った皿を持って戻って来た。
 それは緑色の餡がついた餅だった。
「なんだこれ?」
 家康がキョトンとして言うと、
「いいから食ってみろよ」
 と政宗に言われ、家康はとりあえず一つ食べてみた。すると…
「美味い!」
 口の中を仄かな甘みが広がって何とも美味かった。
 それを見た政宗は得たりと笑んだ。
 何だか嬉しそうな顔だった。
「Of course!この独眼竜が作ったんだ、不味いわけねぇだろ?」
 その言葉に家康は目が点になった。
 は?誰が作ったって?
「独眼竜が作ったのか?!」
「まぁな」
 政宗はニヤリと笑った。
 家康はポカーンとした。するしかないだろう?だってあの独眼竜だ。あの独眼竜がまさか料理出来る(しかも美味い)なんて誰が思う?思わんよなフツー?!
 と、家康は内心いろいろ考えた。
「An?どうした家康?」
 思わずまじまじと政宗を見つめていた家康はハッと我に返った。
「な、なんでもねぇ!ちなみにこの餅はなんと言うんだ?」
「ずんだ餅だ。この餡は枝豆を叩いて作ったんだぜ」
 そう言って楽しげに笑う姿は無邪気で、何時もの人を食ったような笑みはなく、独眼にも剣呑さはない。
 家康は次々と餅を口に運び、口の周りを餡だらけにした。
「オイオイ、んなに慌てなくても餅は逃げねぇよ」
 政宗は苦笑しながら家康の口元を懐紙で拭ってやった。
「すまねぇ。しかし独眼竜…見かけによらず面倒見がいいな…」
 と、家康は思ったまま素直な感想を述べた。
「そうか?」
 と、政宗も返した。
 その時―…

「あぁ――っ!!!ズルい家康!!梵〜!俺にもずんだ餅〜!」

 と叫びながら件の成実が部屋に入って来た。
「Ah?ある訳ねぇだろ?」
 政宗はすげなく言った。
「え〜!俺も梵のずんだ食べたいのに〜!」
「うるせぇ!」
 まるで兄弟のような二人のやり取りに、初めこそ呆気にとられた家康だったが、次第に笑いがこみ上げて来て、うっかり吹き出してしまった。
「ぷっ!ハハハハ!仲がいいなおめぇら!」
 笑われた二人はばつが悪そうに押し黙った。
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