戦国おとぎBASARA
□六本爪の竜神〜片目の竜〜(完結)
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血だらけの若者を背負って帰って来た小十郎を見て、村人は驚愕したが、小十郎と共に若者の傷の手当てを手伝ってくれた。
夜も更けた頃、漸く若者の様態が安定した。
小十郎は、若者の額に当てた手拭いを取り替えてやりながら、若者の顔をとっくりと眺めた。
かなり秀麗な顔立ちをした若者だった。
肩に掛かる少し癖のある髪、すっきりとした鼻梁、伏せられた切れ長の目を縁取る睫毛も長い。
どこかの商家の倅だろうか?
見る影もなくなってしまっていたが、着ていた着物は上質なもので、肌はきめ細かく、元々が色白なのだろうその肌には労働の後は見られない。が。手当てをした小十郎は、若者の身体が武人のようによく鍛えられているのを見て取っていたので、すぐその考えを改めた。
何処かの侍か?
しかし、この辺りに武家屋敷は無い。
若者の身なりから野武士や落ち武者の類でないことは確かだろう。
何より、若者は刀を持っていなかった。
若者が呻き声を上げて身じろぎした。
小十郎は身を乗り出した。
「しっかりなされよ」
小十郎が呼び掛けると、若者の切れ長の目が薄く開かれた。
―――と、次の瞬間、
「がっ?!」
若者はカッと目を見開き、尋常ではない力で小十郎の首を掴み締め上げた。
「な゛…な゛に゛を゛っ…?!」
小十郎は、息も絶え絶えに言った。
すると、
「ここは何処だ?!テメェは何者だ?!」
と、若者が目をぎらつかせて言った。
その苛烈なまでの目の光に気圧されながらも、小十郎は、どうやら錯乱しているらしい若者を宥めるべく言葉を紡いだ。
「おち…つか…れよ!…俺は…医者だ!」
「医者?」
若者の手が少し緩んだ。
「がハッ…そぅ…だ!ここは…俺の…家…泉でっ…助け…!」
そこまで言って、若者の手が小十郎の首から離れた。
解放された小十郎は、しばらく咳き込みながら空気を吸った。
一方、若者は脱力したように腕を下ろした。
「泉で…そうか…thanks…助かった」
と、力無く言う。
しかし、次の瞬間、若者はハッと目を見開き、勢いよく体を起こした。が。途端走った激痛に、若者は呻いた。
驚いて小十郎は怒鳴った。
「な?!まだ起き」
るな。と続けようとして、小十郎の言葉は、若者に遮られた。
「刀は…!刀はどうしたっ…?!」
苦しげに呻きながら若者は言った。
「刀?」
やはり武士か?
若者に問うと、若者は、
「武士?…違う!とにかく!刀…見なかったか?」
と答えた。若者は酷く焦って見えた。
「申し訳ありません。見てはおりませぬ」
と、小十郎は答えた。
「Shit!」
若者は苦々しく毒づくと、そのまま立ち上がろうとして、よろめいた。
小十郎は、慌てて若者を支えた。
「ご無理をなさいますな。大分血を失っている。しばらくは、ここで養生なされよ」「離しやがれ!アレがねぇと」
「第一、お一人では歩けますまい。俺に手伝えと言ってもききませんよ」
と、言い募る若者の言葉を遮って小十郎が諭すと、若者はクッと呻いた。
「さぁ、今少し休まれよ」
小十郎がそう言うと、若者は渋々と言った丁で小十郎に支えられ布団に横たわった。