戦国BASARAかってに外伝

□独眼竜と権現2
2ページ/3ページ


「…そうするしか出来なかった!!本当は…分かり合いたかったのに…っ、共にっ…泰平の世を築きたかった…っ!ワシは…ワシは…っ!」


 今でも思う。


 本当に彼とは殺し合うしかなかったのか?


 分かり合える道もあったのではないか?

 己は、その努力もせず彼を討ってしまったのではないのか?と…


「独眼竜…ワシは怖いのだ……このまま、ワシ自身が壊れていくようで…」

 家康は、改めて自身の両手を見詰めた。
 まるで、今もその手に赤い血がついているとでも言うように絶望しきった表情で―…


「はぁ…仕方ねぇな…」


 政宗は、溜め息混じりに言った。


 と、刹那、


「!!」


 有無を言わさず、政宗は、家康の手を掴み自らの頬に押し当てた。


「ど…っ」
 独眼竜、と言おうとした家康を政宗の言葉が遮った。

「どうだ?血は見えるか?」

「…っ!」
 家康は、ぎこちなく政宗の顔を見やった。
 触れる手のひらに彼の温もりが伝わる。
 白い、北国特有の透けるような白い肌、そのどこにも血の赤はない。
 己の手も、赤く穢れていない。
「独眼竜…」
「アンタは昔から変わんねぇな…真っ直ぐで、明るくて、優しいんだが…どっか危なっかしくていけねぇ」
 と、政宗は苦笑を滲ませて言った。
「ワシは…」


「惑うな家康」


 政宗は、家康にはない強く鋭い光を眼に宿して言った。


「アンタが何を思い。どう戦って来たか俺は知ってる。…いや、俺だけじゃねぇ、孫市や、それこそ、本多達アンタの家臣達が見ている。たとえそれが血塗られた道でも、それがアンタの選んだ道だ」
「だから、友の返り血で赤く染まってもその道を歩めと?残酷だな…」
 政宗の言葉に家康は儚く笑った。
「ああ、残酷だ。だが、そうしなけりゃ守れねぇものもある。掴みたい未来がある。だから俺もアンタも戦った。勿論、孫市や本多だってな……家康、アンタが血塗られた道を選んだことで、大事な何かを失ったことで、確かに守られたものもあった筈だ」
「そうだろうか…?」
 と、家康は弱々しく言った。


「それを証明すんのが生き残ったアンタの役目なんじゃねぇのか?」


「!!」
 家康は、ハッとして政宗を見やった。
 政宗は、先程と同じ強い眼光で家康を見返した。それは例えるならば、研ぎ澄まされた刃の煌めきのような…強く、冴え冴えと冷たい輝き。
 もしくは、降りしきる豪雨の中、天と地を揺るがす雷のように強く鮮烈な光。

 竜の眼光。
 はたと、家康は気がついた。


 誰も彼もが手を赤く染める戦国―…


 農民達でさえ、鍬を武器に手を染める。


 目前にいるこの竜とて、数々の戦場で、その爪を、牙を振るい、数多の敵を屠り、その手を、身体を、血で赤く染めて来た筈なのだ。


 そう―…


 戦わなければ守れないものがある。


 掴みたい未来がある。


 だから、たとえ、その手が、その身が血で赤く染まろうとも、誰の返り血を浴びようとも、屍の浮かぶ血の海を行く。


 その先に、目指す未来があると信じて―…


 それは正に、この竜自身が己に言い聞かせて来たであろう言葉―…
 何度心挫かれそうになっても、その心が暗く陰っても、その言葉を糧に、多くの家臣に支えられながら、彼はそれを乗り越えて来た。
 だから、己の求める未来を見つめていられる。
 真っ直ぐ、迷いなく、殺戮も、陰謀も、屍の山も見てきたその独眼で。
 そして、その見据える未来には、支えてくれた家臣達や、奥州の民達の笑いあう姿がある。
 それを守る為に、血塗られた爪を振るう。


 それが、彼の誇り。


「アンタが信じて戦ったものは何だ家康?たとえ自分が傷ついても進むと決めたのは何の為だ?」


「………」


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ