独り言
□エピゼロぷち:チョコラティーノ・ルーレット
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「はいっ!ハッピ〜バレンタイ〜ン♪♪」
ミナは可愛らしい包みを両手に一つずつ持って言った。
「…おぅ。」
秋人はぶっきらぼうに。
「サンキュー♪」
崇はにこやかに受け取った。
表情は違ったが、二人の心は同じだった。
例えるなら、判決を待つ被告人のような気分。
いや、悪い事した記憶はないけど。
「…で、今年は誰と作ったんだ?」
崇がにこやかな顔のまま尋ねた。
顔は笑っていたが、心の中では冷や汗が滝のようにだらっだら。
「え?ママとだよー?
パパの分と一緒に作ったんだもんっ。」
ミナがこてんと首を傾げながら答えた。
「「よしっっ!」」
((危機回避っっ!!))
二人は小さくガッツポーズをした。
「なぁに?」
「「いや、気にすんな。」」
首を傾げたままの美奈子に秋人と崇はごまかした。
バレンタインは秋人と崇にとって、ある意味ロシアンルーレットを体感する日でもある。
と、いうのも毎年ミナが張り切ってチョコレート菓子を作るからだ。
チョコレートを作ってもらえるのは正直嬉しい。
沢山の人間が、それを羨んでいるのも知っている。
しかし。
問題が一つ。
ミナがこんな楽しい(ミナ談)イベントを一人で準備する訳がなく。大抵は母親と、もしくは友達、または…こういったイベントの時に人一倍張り切る“ある人物”と作る。
他の人ならいい。
ただ“その人物”と一緒に作った場合、甘いチョコレートが確かな殺傷能力を持った凶器へと変貌する。
実際、秋人と崇は何度か三途の川を渡りかけた。
どうやら、今年の危機は回避されたらしい。
秋人と崇が心の底からホッとしていると、ミナが要らない事を思い出した。
「あ、預かりものがあったんだ。」
ミナがポンっと手を叩く。
「「!!」」
二人に緊張が走る。
ごそごそとバックを漁ると、ミナは二つの包みを取り出した。
ミナのものに負けず劣らず可愛らしいラッピングのソレに秋人と崇が固まった。
だって。
包みから、明らかな異臭がする。
「ハイっ!ビアンキ姉さまから♪仕事でこっちに帰れないからって、私のトコにまとめて送ってくれたんだよ!!」
ミナは可愛らしい笑みを浮かべて、二人に危険物を手渡した。
「お…おぅ……。」
「さ…さんきゅぅな……。」
二人はあさっての方を見ながら受け取った。
包みからゴポゴポゴポゴポと、何かが煮えたぎるような音がする。
なんでだ。
って言うかコレは何の臭いなんだ。
そもそも、何が入っているんだ…
…食べ物じゃないのは確かだ。
「えっと“心を込めて作ったから、喜んで食べなさい。”だって♪」
にこっと笑うミナが非常に恐ろしい。
「…………。」
「…………。」
秋人と崇が複雑な顔で目配せした。
「どうかした?」
「いや…」
いつもは明快な崇も歯切れが悪い。
秋人と崇は無言のままビアンキから届いたチョコレート(らしい何か)を用意していた防火布(消防士の隊服とかに使われる布)でできた袋に慎重に仕舞う。
不用意に自分のかばんに入れたりしたら、多分かばんごと溶ける。(経験済)
正直棄ててしまいたかったが、その辺に適当に捨てたりしたらテロと間違われそうだ。
それに、もし棄てたのがミナにバレたらキレるだろうし、万が一ビアンキにバレたら本気で殺られる。
ポイズンクッキング・フルコースとかで。
「……お前のおばさんだろ、なんとかしてくれよ……」
崇がミナに聞こえないよう、ボソボソと言った。
「親父だって敵わないのに、俺が太刀打ち出来る訳ないだろっ!!」
「確かに……」
秋人の叫びに、崇は虚ろな目で頷いた。
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