期間限定

□乙女心と秋の空
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「え?」

「なんだ?てめぇ。」

高校生たちが声の主に凄む。

傘を差した声の主は花からはよく見えない。

「イヤがっとるではないか!
しかも、女子一人に男三人とは。
お前ら恥を知れっっ!」

気持ちいい一喝が飛ぶ。

「なんだとぉっ!」

カチンと来たらしい高校生が、声の主に殴りかかった。

「キャァァっ!」

パシッ

殴りかかった高校生の拳を、片手で難無く握り止めそのまま捻り上げた。

「軽いな。」

「痛ぇっ!!」

捻り上げられた高校生が悲鳴じみた声を上げる。

「おお!スマン、スマン。」

事もなげに掴んでいた手を離した。

「な、ふざけんなっ!」

もう一人が拳を握り、再び殴りかかろうとしたが、高校生が拳を振り下ろす前に鋭いストレートが高校生の頬を掠めた。

高校生の頬から一筋の血が流れた。

「ひっ。」

三人の動きが止まる。

「なんだ?
お前ら、俺のスパーリングに付き合ってくれるのか?」

三人は直ぐさま理解した、“こいつにこれ以上関わったら怪我じゃ済まない”と。

「べ、別に無理になんて言わないぜ。」

「そーそー。
じゃーな。」

高校生たちはそそくさと立ち去って行った。

「なんだ。
極限つまらんな、骨のない奴らだ。」

心底がっかりしているようだった。

「あの…ありがとうございました…えっと、お兄さん。」

「おお!
誰かと思ったら、京子の友達の子ではないか!!」

ぺかっと晴れ渡るような笑顔で、親友の笹川京子の兄、笹川了平が言った。

どうやら今、妹の友人だと気付いたらしい。

(つまり、私だから助けたって訳じゃないのね。)

「はい。助かりました…」

呼び方が同じクラスの沢田と同じになってしまった。なんとなく釈然としないが、他にどう呼んだらいいのかも分からない。

「うん?
うーむ、梅…?…ぼたん?…桜?…うーむ…」

「は?」

(何?急に悩みだしたわ…なんなの?)

笹川兄の奇行は有名だが、助けてもらった手前無下にも出来ない。

「あの…」

(せっかく一瞬カッコイイかも、とか思ったのに…)
そのうち何か思い出したらしい了平は手をポンッと叩いた。

「おお!そうだ!!
怪我はないか“花”?」

ボフッ

花は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。

「あ、う。だ、大丈夫です。
お蔭様で…」

「そうか、それは何よりだ!」

ニカッと笑う、その顔は親友に確かに似ている気がした。

「時に花、こんな所で何をやっとるんだ?」

「あ、傘忘れちゃって。
どうしようかな〜なんて。
もう、走っちゃおうかなぁと。」

思わず正直に答える。

「何?それはいかんぞ。
そんな事をしては風邪をひくだろう。
よし、これを使え!」

そう言って了平は花に無理矢理自分の傘を握らせた。

流石に花が焦る。

「そんなっ。
申し訳ないです!第一、お兄さんが濡れちゃうんじゃ…」

「何、俺はこれくらいの雨どうと言う事もないからな、気にするな。」

そう言ってトレーニングウェアのフードを被る。

「これがあれば十分だ!」

あっはははと笑いながらフードを指差す。

「え、そんな…」

「あぁ、傘は京子にでも渡してくれ。」

「え、あの…」

「じゃぁな花。
気をつけて帰るのだぞ?」
そう言うと了平は軽く片手を上げ、さっさと行ってしまった。

多分、ロードワークの途中だったんだろう。
あっという間に走って行ってしまった。

「人の話しは最後まで聞きなさいよ……」

花は一人呟くと、借りた傘をさして歩き出した。


颯爽と現れて、
あっという間に不良を蹴散らして、
困っていると知ったら自分が濡れるのも構わず傘を貸してくれて、
また颯爽と去って行くって……


「どこの正義の味方よ?!」


(なによアレ?
ちょっとカッコイイじゃないっ!!
いや、むしろカッコつけ過ぎでしょ!!)

心の中で全力でツッコミを入れる。

(しかも、傘は京子に渡せですって?)

「冗談!そんなもったいない事しないわよ!!」

(しかも、そんな失礼な事!)

父親以外から、あんなふうに名前で呼ばれた事など今まで一度もない。

まだ顔が熱い気がする。

(まずは、傘を借りたお礼をして…そうだ、ボクシングやってるのよね、試合の応援とか行くのもいいかも…)

これは長期戦になるかも…と花は思いつつ、傘で赤く染まった顔を隠しながら家路を急ぐ。

(みてなさいっ!
絶対負けないわよっ!!)


カーンッ!!

こうして、黒川花と笹川了平の試合開始のゴングが鳴り響いた。


−−−−−−−−−−

≪完≫

−−−−−−−−−−

次は後書きです。
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