期間限定
□ドン・ボンゴレ誘拐事件
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それに最初に気付いたのは、彼の人の右腕だった。
いつものように、今日一日のスケジュールを確認すべく、朝一番でドンの寝室に来た仕事熱心な右腕はいくら叩いても返事のない扉に首をひねっていた。
これがもし数十年前のまだこの地に不慣れな頃なら、まだ起きていないのだろうと踏み込んで主を起こすだけだったが、近年では自分がドアの前に立つだけで名前を呼ばれる事もあるくらいだった。
にも関わらず、先程からかなり強めにノックを繰り返しているのにまったく返事がない。
昨日はひどく遅くまで業務に励んでいた主は久しぶりに深い眠りに落ちているのだろうか、それとも……
「十代目、失礼致します。」
ガチ
焦る気持ちを抑え、獄寺はうやうやしくドアを開けようとした、が鍵がかかっていてびくともしなかった。
「何やってんだ、獄寺?」
「山本。十代目から返事がねぇんだよ。」
「なんだ?まだ寝てんのかツナの奴。」
通りかかった山本も首を捻る。
「昨日も遅かったんだろ?もうちょっとなんとかしねぇと、そのうちツナがぶっ倒れちまうぜ?」
「そりゃ、俺だって…」
守護者二人がドンを心配していると、それまで静かだった部屋からドンの悲鳴が聞こえた。
『な、何するんだ!
う、うわぁーーー!!』
「じゅ、十代目!どうしたんですか!!」
「どうしたっ!ツナ?!」
獄寺は扉に張り付いてガチャガチャとドアノブをいじるが動かない。しかも、ドンの部屋の扉は特別製でそう簡単には突破出来ないようになっていた。
「獄寺っどけっ!」
山本の掛け声に獄寺が横へどくのと同時に山本の時雨金時が閃いた。
ガキンッ
ドカッ
山本は切り崩した扉を蹴破って、ドンの寝室に踏み込んだ。
ベッドはもぬけの殻。
大きく開いた窓からは爽やかな風が入り、カーテンをはためかせていた。
後に続いた獄寺は咄嗟に窓に走り寄る。
正面の門から青い車が凄いスピードで走り去るのが見えた。
盛大に舌打ちした獄寺は、ドンの部屋から怖い顔を出した右腕に驚いている中庭の部下たちを一喝した。
「何してやがるっ!
あの車を追えっっ!!」
「「はいっ!!」」
ある者はバイクで、ある者は車で走り去った車の追跡に向かう。
「獄寺これ見ろっ!」
山本がベッドの上に一枚の手紙を見つけた。
丁寧に三つ折りにされていたそれには、日本語でこう書いてあった。
『沢田綱吉は預かった。
無事に返して欲しくば三億円用意しろ。』
ドン・ボンゴレ誘拐事件はこのようにして幕をあけた。
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