期間限定

□そー言えばそんなコトもありました。
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「母さん。
親父、おじさんたちともうすぐ来るって。」

小さな声に足元を見ると、息子の晃平が自分のケータイを指差して言った。

「そう…それじゃあ…」

花が立ち上がろうとすると、近付いて来た息子に気づいた田中が声をかけてきた。

「ねぇ、ねぇ黒川。
その子ってもしかして…」

「そ。私の子。
ほら、挨拶しなさい。」

「…はじめまして。笹川晃平です。
母がお世話になってます。」

晃平はぺこり、と頭を下げた。

短い髪、キリッとした眉、意志の強そうな瞳、小さい割にしっかりした口調。

周りにいた元同級生たちがかわいい〜と沸いた。

「はい。こんにちは。
私はママのお友達の田中です。
いや〜、さっすが黒川の息子さんねーしっかりしてるわーー!」

田中が感心しながら、小さな頭を撫でようと手を伸ばしかけた。
その時、

「こーにぃーちゃーーんっ!」

晃平の後ろから、晃平よりふたまわりほど小さい女の子がへばりついた。

「ミナ…」

ぴょこっ

晃平の後ろから顔を出した少女に同級生たちが息を飲む。


栗色のふわんふわんの長い髪の毛、宝石のようにキラキラした大きな琥珀色の瞳、それにかかる長い睫毛、薄いピンクの頬、滑らかな陶器の様な白い肌。

よく可愛い子供を“天使のような〜”と例える事があるが、少女はまさに地上に降り立ったばかりの天使のような愛らしさだった。


少女は自分を見下ろす人達に気付くと、にこっと笑いかけた。


「「「可愛いぃ〜〜〜!」」」


思わず黄色い歓声が上がる。

お姉さんたちの声にびっくりしたのか、少女はびくっと肩を揺らし晃平の後ろに隠れた。

そんな姿も可愛いらしい。


「なんだ?なんだ?」


女子たちの歓声につられて、何人かの男子たちも集まって来た。

ぴょこっ

少女が再び顔を出す。

「こ、こんにちはっ。」

ずきゅーーーんっ

今何かに撃ち抜かれた。
全員“別にそんな趣味はないんだけど…”とか思いながらも少女から目が逸らせない。

「うっわ、ほんと可愛いなぁ。」
「誰の子だ?」
「お嬢ちゃん、お名前は〜?」

ちょっと酔っていた一人が無遠慮に少女に手を伸ばそうとした、その時。

ぱしっ

その手は小さな二つの手に叩き落とされた。

「なんか用っスか?」
「ミナに触んな。」

ミナと同じくらいの少年二人が大人たちを見上げていた。

一人は黒髪。
少し陽に焼けた肌から覗く白い歯。
人懐っこそうな黒い瞳は忙しなく周りを見渡している。
その手には何故か竹刀が握られていた。

一人は銀髪。
西洋の血か、陽に焼けていない白い肌にお人形のように整った顔。
これまた大きなエメラルドのような緑色の瞳は少しきつめに釣り上がっている。

タイプは違うが二人ともなかなか絵になる少年だった。


「「「きゃーーっ!」」」


どんっ

少年たちの敵意に、不埒な考えを見透かされたような気になって固まっていた男子たちを、女子たちが遠慮なく弾き飛ばした。


「カワイイィ〜〜〜!」
「僕たちいくつ?」
「お名前は?」
「何処から来たの?」


知らないお姉さんたちの高いテンションに銀髪の少年は思わず後ずさり、黒髪の少年は逆に一歩前に出て元気良く答えた。


「俺、やまもと たかし!
この前、三歳になったんだぜっ!!」

崇はニカっと笑って、小さな指を3本立てながら胸を張った。

「「「きゃーーっ!」」」

ぱちぱち ぱちぱちっ

黄色い歓声と何故か拍手まで起こる。

得意げな崇に負けじと、銀髪の少年も一歩前に出て言った。

「ごくでら あきとっ。
同じく三歳!!」


「「「きゃーーーっ!」」」

ぱちぱち ぱちぱちっ

再び、黄色い歓声と拍手が起きる。

「「「いやーん、カワイイ〜」」」

とか叫ばれながら少々酔っているらしい同級生たちに、少年二人は小動物のように揉みくちゃにされた。




「母さん…」

「何?」

騒ぎから一歩引いた息子がなんとも言えない顔でたずねる。

「この盛り上がりは何?」

「これが“酒の席”ってヤツよ。覚えておきなさい。」

「……わかった。」

晃平は妙に神妙な顔で頷いた。


今にも飛び出して行きそうな小さい従兄弟を、後ろ手に隠しながら。



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