___小説
□【腐向け】まゆげのあいつ【米英】
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―――退屈だ。
窓際なのが幸いだった。
景色を見るだけでも、多少の暇つぶしにはなる。
外では体育の授業中であろう生徒達が目に入った。
みんな手のひらに収まってしまいそうに小さく見える。
視界の端に映る、流れるように書き出されていく白い文字。
先生が何か暗号めいた事を言っているが、てんで頭に入ってこない。
賢い俺は、聞いている振りを続けた。
こんなに退屈で、生きていく上で殆ど必要ないような知識を平然と聞いていられるクラスの奴らが理解できなかった。
皆に一瞥くれてやる。
しかしテストを目前に控えた今、俺に反応してくれるような暇人は見当たらなかった。いや、それが本来あるべき姿。
しかし。
俺の席から三人程越えた席。
愛嬌のある眉毛がチャームポイントの彼。
――――目が、合った。
そう認識した直後に反らされた。ただの勘違いだろうか。
いや、でも確かに視線はしっかり絡んでいた。
もう一度横目でちらりと彼を見たけれど、特に気にした様子は見受けられない。
何事もないように黒板の文字を見てノートに文字を走らせていた。
…名前、なんて言ったっけ。
カーク…なんとか。
らんと?らーんと?
面倒なので、【眉毛の彼】と呼ぶ事にする。
彼はコンプレックスだったりするのだろうか。だったらごめん。
眉毛の彼に心の中で謝っていたら、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
途端にざわめき出す教室。
伸びをする俺。うんうん、今日も一日頑張った。
ちら、と。
彼に視線を向けてみる。
帰る支度をしている最中だった。
別にその動作に動揺や不自然さは感じられなかった。
…じゃあさっきのは、本当にただの偶然だったのだろうか。
俺は彼の動作を見入ったように見ていた。彼の起こすひとつひとつの動作が、何故だか気になって仕方ない。
揺れる金髪は彼が動く度にきらきらと光を散らしていて、自分のものとは全く違うものに思えた。
刹那、バサッと音を立てて一冊のノートが落ちた。
脳が判断するよりも早く、俺は瞬時に席を立っていた。
そして、彼が手を伸ばすよりも早くノートを手に取る。
びっくりした表情で、彼は俺を見つめる。
…自分でも驚きだった。
普通に考えて、席が三つも離れている俺が落ちたノートを拾うなんておかしい。
変な勘違いをされたかもしれなかった。
俺は止まった時間を元に戻すべくして、口を開く。
「っ、はの、」
なんとか出した声は、瀕死の鶏みたいな声だった。因みに本当は、「あの、」と口火を切るつもりでした。
俺は唾を飲み込んで、もう一度言葉を紡ぐ。
「ノート、落ちました」
鶏だってもっとまともな言葉が言えたろうに。
彼は透き通ったガラス玉みたいな瞳で暫く俺を見つめて、ふ、と息を漏らして笑った。
(笑った、)
そして、その笑顔に心が奪われたのは言うまでもない。