___小説


□【腐向け】覚めない夢【米英】(病みめり/シリアス)
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ザアザアという水音。

それが雨だと理解できるまで、少しの時間を要した。
それ程までに辺りは薄暗く不鮮明で、まるでこの空間だけ世界から色を奪われてしまったかのようだった。



―――そして、降りしきる雨の中に彼は居た。


はっきりしない視界の先に、ひっそりと佇む一つの人影。



鼓動が煩いくらいに脈打っていて、息がどんどん荒くなるのを感じた。
なのに俺の足は、まるで地面に刺さったように動かない。

途端に逃げ出したい衝動に駆られるが、その場から動く事さえ微塵も許されなかった。



人影が、振り向く。



(やめろ、)



俺は、彼を知っている。

たった一日だって、彼を忘れた事などなかった。



忘れ、られない。





『――――アル』



口元に微笑が浮かべながら、彼は俺の名を呼んだ。










(――――夢、)



視界の中に飛び込んできたのは、見慣れた天井だった。

全身にびっしょりと嫌な汗をかいていて、坂を全力疾走した時のように呼吸が荒い。



…まただ。


俺は定期的にこの夢を見る事が多くなっていた。
それも、全く同じ内容で。


俺は窓を開け、冬の冷たい外気を肺に送りこんだ。
乾燥した空気が肌を撫でていく感触が、汗で湿っている身体に心地良い。

しかし、外の景色はまだ暗いままだ。
太陽がこの時間になっても昇ってこないところを見ると、冬はまだまだ明けそうにない。


(…もう一度寝るか?)

しかし二度寝をしようにも、あんな夢を見てからでは気が乗らない。
何か作業をして気を紛らわせようとしたけれど、もともとそんな事が出来る性分ではないので諦めた。



そこでふと、ある写真立てが視界に入る。

兄弟のようにも見える二人の少年と青年が笑顔で写り込んでいる写真だ。


…今更、こんなものを持っていたってどうにもならないことぐらい分かっている。



俺は、部屋を後にした。




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