___小説


□【腐向け】堕ちていく【独伊】(裏有り)
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ある日、あいつが泣きじゃくりながら俺に言った。



『もっと、好きって言って』



その言葉を聞いた俺は、ただ狼狽えることしか出来なかった。











―――俺はいつもより熱い温度でシャワーを浴びながら、ヴェネチアーノの言った言葉を思い出していた。



俺は、あいつの涙は好きじゃない。

あいつにはいつも笑っていてほしいのだ。



だから俺はあの時、あいつの意志よりも先に『泣かせてしまった』という自分の意識に支配されてしまった。






…っ、大体、あいつは俺に何を求めている?



あいつの後始末は俺が全部してるし、自分の仕事だってきちんとこなしている。


あいつの個人的な我が儘も可能な限りは受け入れてやっているし、何一つ不満は無いはずだ。



あいつは、これ以上何を求めているんだ?

何が気に食わないんだ?








(――糞ッ、)



俺は蛇口を捻る。

先程よりも更に熱い湯が頭上から打ち付けられ、意識が瞬間的に遠退く。






やはり、互いの価値観が違いすぎる。


(――あいつが、分からない)













ルートヴィッヒはぼうっとする意識の中、バスルームを後にした。




冷蔵庫から冷えたビール缶を何本か取り出し、乱暴に蓋を開ける。


よく冷えたそれは、乾いた喉に心地よかった。








一本、また一本と手が伸びていき、次第に缶の山が出来上がっていた。




山になる程のビールがある事にも驚いたが、自分の酔い振りにも驚いた。


いつもの俺なら、毎日飲む本数を決めている。
ましてや、一人で酔いつぶれるまで飲むなんてことは今までにない経験だった。





俺は机に突っ伏して、日本が箱で贈ってくれたビールは想像よりも美味かったなあ、なんて考えていた。








今日はこのまま寝てしまおうかとも考えたが、それは考えるだけに終わった。




――ンポーン




「……ぁ?」





ぼやけているのは視覚だけではないようで、音もなかなか鮮明に聞き取れない。





俺は重くなりつつある瞼を閉じたが、音は鮮明さを増していった。






――ピンポーン


――ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピン…






「何」





音を止めたのは、ルートヴィッヒ自身だった。


そしてドアの前に佇んでいたのは、俺の悩みの元凶だった。





「っ、ふぇ、ルート居たの?!」


「…何」


「何って…、ルート、なんか…怒ってる?」




この声は…ヴェネチアーノ?





「なんで、来た」


「なんで、って…来ちゃだめだった?」




ヴェネチアーノの泣きそうな声は、泥酔しているルートにも理解できた。




(っ、面倒だなぁ、)









「…ちょっと、ルート?!」



ルートヴィッヒはヴェネチアーノの手首を掴んで無理矢理家の中に連れ込んだ。





朦朧とする意識の中で、自分のものとは似つかないヴェネチアーノの細い手首の感触だけは、はっきりと覚えていた。








「ルート…?」



ソファに無理矢理押し倒されたというのに、ヴェネチアーノは焦っている様子はない。

それがなぜだか、今の俺には凄く不快だった。






「…っふ、」



自身の唇を押し付けるような形でヴェネチアーノのそれに無理矢理重ね合わせた。




ヴェネチアーノは拒もうとするが、そんな華奢な手首では無意味だった。


そしてその手首を掴み、俺の背中に回させる。
震えている彼の手首は滑り落ちてしまうかと思ったが、ヴェネチアーノは爪を立てるようにして力を込めていた。





「…っ、」



俺は、普段ヴェネチアーノがするようにして彼の唇を自分の舌で無理矢理割らせた。



彼は何度か何か言いたげに口を開くが、俺はその度に舌を絡め取って拒否した。



(考える暇なんて、やらない)



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