Dazzlement Heaven

□第一章
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ベガを通り過ぎ、その先にある陽だまりの下へと駆けて行く。
陽だまりの下で空を見上げている彼女は、足元に摺り寄ったトラに優しい微笑みを見せていた。



『・・・・・・・・。』

「楽しそうですね。」



うっそうと覆い茂る森は、真上から差し込む日の光を疎らに通している。
少し前をいくミリアとトラの姿を見て、エッダの隣を歩いていたベガが声をかけた。
視線だけを彼女に向け何も答えようとしない彼にやはり苦笑いを見せるベガは、エッダのことをほんの少しだけ苦手だと思う。
それでも前を歩くミリアがしゃがみ込んで花を摘むのを黙って待っていたり、道を間違えたらきちんと声をかけている姿を見て、それほど悪い人ではないのだと考えを改めようとした。

そのままエッダの指示に従って獣道を進み、少し開けた場所に出る。
木も何もなくなった場所で不思議そうに辺りを見回しているミリアは、少し遅れてそこに到着した二人を振り返って首を傾げる。
同じように首を傾げるベガを見て、エッダは溜息を吐いて辺りを見回して何かを探している。



『何度も来ていたんだろ。』

「でも、その時はこんな感じじゃありませんでしたよ。」

『・・・・結界の存在を知らずに来ようとしてたのか。』

「結界、ですか?」



不思議そうに頭を傾げるベガの元に、ミリアとトラが駆け寄る。
道がなくなってしまったと戻ってきて首を傾げるミリアは、エッダと同じようにベガを見る。
呆れたように細めるエッダの暁の瞳を困ったように見つめるベガの緑の視線は、溜息を吐いた彼に申し訳ない顔をする。

これでよく「一人で大丈夫」だと言えたものだ。何度か道を間違えていたし、塔を囲む結界の存在も知らなかった。
ミリアにせがまれて付いてきたエッダだったが、付いてきてよかったと内心思う。
一週間後に、のたれ死にしている彼女を見つけることになるところだった。



『塔には結界が張ってある。お前が用のある、アレの為にな。』

「そうだったんですか・・・。」

『知らずによくここに来ようと思ったものだ。』

「私はいつも付いてきているだけですから。」



緩く微笑みを見せるベガの顔を見つめるミリアは、少しだけ残念そうに息を吐いた。
せっかく来たのに、何もないと思い込んでいるのだろう。
しゃがみ込んでトラの頭を撫で始めた彼女の手に途中で摘んだ花が握り締めらているのに気付いて、エッダはしゃがんで手を伸ばす。



『貸せ。』

「お花?」

『あぁ。』



立ち上がって言われるがままに持っていた4本の花をエッダに手渡すと、それを受け取って歩いていくエッダの後姿を視線で追う。
何を始めるんだと不思議な顔をしてそれを見ているベガの横に並んで、ミリアは彼女を見上げた。





何も無い開けた場所の真ん中に、花を置くエッダ。
置いて手を合わせた彼は、一言何かを呟いて二人の元へと戻ってきた。
戻ってきて少し離れていろと言ったエッダはもう一度花の方向へ向かって手を合わせると、膝を着いてお辞儀をした。
不思議そうにそれを見つめているミリアに一度声をかけて少し離れたベガは、同じように離れてきたミリアに微笑みかけた。



「なんだかんだ言って、良い人なんですね。」

「・・・よく、わからない。」

「少し言い方はきついですけど。」

『聞こえているぞ。』



話しているとふとエッダの声が聞こえ振り返ると、少し不機嫌そうに二人を見ているエッダがいた。
その声に気付き二人がエッダを見ると、その向こう側に先程までは見えなかった巨大な塔が聳え立っていた。
どうしてだといった表情でそれを見上げるミリアは、ベガと話していたことを少し後悔しているようだ。
エッダにもう一度やってくれと視線で訴えているが、もう出来ないと強く言われるとしぶしぶながらも諦めたようだ。



「高ぁい・・・。」



塔に近付き間近で見上げてみると、天に届く勢いで地面から伸びている。
その高さから、下からは塔のてっぺんは見えそうにもない。
下から見上げて声をあげているミリアの横に立ったベガは、振り返ってエッダを見た。
塔に入る気はなさそうな彼は、近くの木に凭れ掛かって塔を見上げているミリアを眺めていた。
めでたい奴だとでも思っているのだろうか、はしゃぐ彼女を見て一度溜息を吐くとすぐに足元に視線を落とした。



「・・・どうしていきなり出てきたのかな。」

「どうしてでしょうね。」

『・・・・・本当に何も知らないのか?』

「はい。いつも付いて来ていただけですから。」



にっこりと笑って答えるベガに、エッダはやはり溜息を吐く。
「溜息を吐くと幸せが逃げますよ。」と微笑みながら言うベガに、誰のせいで溜息が出ているんだと内心呆れるエッダ。
おそらく本人に言ったところで理解されないだろうという直感に従って、どうとでも言ってくれと言わんばかりに無視を決め込む。
そんな姿に笑みを零したベガは、隣で未だ感動しているミリアの手を引いて塔の入り口へと導く。
相変わらず上を見上げたまま手を引かれるミリアは、足元に落ちていた小石に躓いてよろけてしまう。
それをクスクスと笑うベガは、見上げていた視線をようやく戻したミリアの桜色の瞳を見つめて微笑む。



「・・・行きませんか?」

『ここまでは案内した。入る必要もないだろう。』



一息に答えてベガを見据えるエッダに不服そうな顔をしたミリアは、エッダの元へ近寄ってコートの裾を引く。
一緒に入ろうという合図だろう、放すように言われると裾を掴んだままベガの元へと歩こうとする。
実力行使というか、頑固というか。
どこか憎めないミリアのその行動にしぶしぶながらも応えているエッダの姿を見て、ベガは微笑みを洩らす。
それに気付いたエッダは不機嫌そうに顔を歪め、ミリアは不思議そうに彼を見上げた。





++++++++++





延々と続く階段を見上げて、少年は嫌な顔をする。
どれほど登ったであろうか、途中の窓から外を見る。
下に広がる木々は遥か低く、緑の絨毯が広がっていた。
だいぶ登ったはずなのに、目的の場所にはなかなか辿り着きそうに無い。
疲れたと階段の真ん中に腰を掛け、腰に下げている鞄から一枚の羊皮紙を取り出した。



「・・・・おかしいな。まだこんな場所だなんて。」



呟く少年が見ている紙には、一つの長細い三角錐に向かって伸びている矢印が描かれていた。
矢印の先は三角錐の中腹より少し上を指しており、矢印の棒に添うような形で“Demzerl”と書かれていた。
確かめるように紙を透かしてみても、その場所が変わることはなかった。
溜息を吐いて、疲れた動きたくないと足を投げ出しながら紙を投げる。
風に乗って思ったよりも遠くに飛んでしまったその紙にまずいと思って追いかけて拾うと、紙にもう一本の矢印が伸びていた。
“Vega”と書かれたその横に“?”が3つ付いている。



「誰と来てるのさ・・・。」



呟いてよく紙を凝視すると、その矢印はだんだんと近付いてくる。
すぐそこまで来たと思ったら止まり、そして少し引き返す。
また近付いたら、止まる。
何だコレと思って紙から目を話すと、くり抜かれた窓から入り込む風と一緒に話し声が聞こえてくる。
ベガの声と、低い男の声と、女の人の歌声。
確実に近付いてくる矢印に疑問を感じ、少年はすぐ近くにある扉に入って隠れて様子を見ることにした。






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