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□おしえてヴェーダー3ー
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前をいくティエリアが左右に揺れている、ロックオンは彼の側へ向かって地面を蹴った。


「ティエリア、どうかしたか?」


隣へ並び問いかけると、数センチ下の顔が此方に上がる、


「なんでも、ありません…」


弱々しい声に、火照った顔、これは…


「お前、熱あるだろ?」

「熱?」


フラフラとしている彼の腕を掴み支えてやりながら、片手を額へと宛がう。


「ほら、やっぱり」


案の定、微熱を悠に超えているであろう体温が手の平へと伝わってくる。
人に触れられることを好まない彼が、額に手を当てられても振り払わない時点で相当身体に負担が来ているのだろう。


「お前、部屋に戻って寝てろ」

「でも、これから」


これからミーティングでブリーフィングルームに向かっている途中のことだった。


「そんな身体で戦闘に出られるわけないだろ」

「僕は平気です」

「平気じゃないから言ってんの、大人しく戻ってろ」

「でも!」

「病人に作戦に出られるほうが迷惑だ」


食って掛かるティエリアを征すように吐かれるロックオンのセリフ。


「…っ!」


ティエリアは珍しく反論してくる様子がない。


「俺がミス・スメラギに言っといてやるから、お前は風邪を治すことだけを考えろ」

「……わかりました」


シュンとなったティエリアのパープルの髪をポンと叩き司令室へ向かった。



+++++



ミーティングも終わり部屋へと戻る途中、ティエリアのことを思い出す。
心配、というほどではなかったけれど、顔を出しに彼の部屋へ向かう。
部屋には通常ロックが掛かっていて本人が暗証番号を入力するか、中から解除しなければ開かないはずなのに。
何故か掛かっていない、ダメ元で押して反応した扉に動揺する。


「ティエリアー…」


中へと静かに踏み込んでいった、マイスターの部屋はどこも全て同じ場所に家具が設置されているので勝手はわかっている。
室内は静かだったけれど、小さな息遣いとベッドの上が少し盛り上がっていることに気付く。


「ティエリア、大丈夫か?」


その言葉に盛り上がっていたそれがビクリと動く、間違いなく人が入っている。


「気持ち悪いのか?」


ロックオンの言葉の後に数秒の沈黙、


「…で、…てけ」

「ん?なんだって?」


小さな声に確認するように問いかける、すると、


「出ていけ!と言っている!!」


ガバッと捲れ上がった布団から彼が見えた、枕を抱えて此方を睨み付けているけれど、上気した頬に瞳が濡れているのははっきりと確認できた。


「泣いてんのか?」

「泣いてなどいない!」

「俺の所為か?」

「違います!」

「だって、涙」

「これは…、違う!!」


顔を赤くしてムキになって否定するティエリアに歩み寄るロックオン、彼は「くるな」と何度も言っていたけれどそんな言葉は無視した。


「俺に迷惑だって言われて泣いていたのか?」

「違います、そんなわけ…」


ティエリアは否定していたけれど、その言葉に反応してかまた少し瞳が潤んできた。
そんな彼から弱々しい言葉が紡ぎ出される、


「僕は…情けない…」

「何がだ?」

「ミッションを確実にこなさなければならないはずのマイスターが風邪などひいて、僕はガンダムマイスターに相応しくない…」

「なんだ、そんな事か」

「そんな事とはなんですか!」

「風邪くらい誰でも引くさ、俺だってこの前まで花粉症だったぜ?」

「花粉症?」

「知らないのか?地球にはそういうのがあんの、風邪みたいな症状が出るんだ」

「では、貴方も風邪をひいていたということですか?」

「まあ、そんなとこかな。だから大丈夫だ、みんな一緒だろ?」


ロックオンの言葉に少しだけ気が楽になった気がする、泣き出しそうな不安そうな顔は少しずつ晴れていった。


「まあ、お前がいないと困ることがあるのは確かだ、早く治してくれよ」

「はい…」


ティエリアの口許が少しだけ弛んだのを確認する、案外頼られるのが好きなタイプなのかも知れない。


「あとで食べ物と薬持ってきてやるから、その時は扉、開けてくれ」


ロックオンの言葉に一つ相槌を打つとまたベッドの中へと潜り込む。
それを確認したロックオンは、食料を取りに部屋を出て行った。



+++++



「ティエリア開けてくれー」


食料を調達したロックオンは再びティエリアの部屋へと向かう、数秒の後に扉が開くと中へと入っていった。


「起きられるか?」


ベッドの中でモゾモゾと動いて顔が出てくる、まだ熱が引いていないのか顔を赤らめ息も荒い。


「飯、食えるか?無理して食うのも良くないけど、少しでも口に入れた方がいい」


ロックオンの気遣いに申し訳ない気持ちで一杯になった。


「すみません…」


初めてかも知れないティエリアのそんな言葉に少しだけ驚いてしまう。


「…気にすんなって、仲間だろ」

「仲間…」


彼の言葉を反芻するティエリア、一緒に作戦行動を行っていたけれど、仲間というものを意識したことがなかった。


「そうだ、俺もお前も刹那もアレルヤもソレスタルビーイングの連中はみんな仲間だろ、違うか?」

「そう、ですね…」


ティエリアのことだから「くだらない」と言って切り捨てそうな言葉を受け入れる、ただの建前だろうか、弱っているからこその本音だろうか、ロックオンはまだティエリアのことを何も知らない。
いつもツンケンしていて作戦遂行の為なら手段を選ばず、ヴェーダに忠誠を誓い、GN-005 GUNDAM VIRTUEを乗りこなす中世的な容姿のティエリア・アーデ。
彼のことは何も知らない、けれど、今日一つわかったことがある、それは彼が俺達のことをちゃんと認めてくれているということだ。
今までどこか人と壁を作り関わろうとしなかったティエリアもちゃんと弱い部分を見せることができる。
ただ少し甘え方を知らないだけなのかも知れない、周りの人間がそれに気付いてあげられた時、きっと…



+++++



「そうだ、薬持ってきたけど、飲むか?」


ロックオンはポケットからDr,モレノに貰った風邪薬を取り出した。


「くすり?」


ロックオンに運んでもらった食料に口をつけていたティエリアは視線を移した、不思議そうな顔で彼の手の中にある薬というものを見つめる。
そこには粉末のようなものの入った小さな袋があった。


「くすり、とはなんですか?」

「そうだな、これを飲むと熱が下がるんだ」

「…風邪が治る粉、ですか?」

「簡単に言うとそうだ」

「…飲みます」

「苦いかも知れないぞ、平気か?」


子供をあやす様な言葉使いに変わったロックオンになんとなくバカにされていることを察した。


「からかっているのですか」


急に脳に血を昇らしたティエリアはクラッときて、俯く。


「おい、無理すんなよ」

「誰の所為だと…」


イラッと声を震わすティエリアをあやしながら水を汲んでやった。


「この粉を口に入れてから水で流し込むんだ」

「わかりました」


薬を受け取ったティエリアは粉末を口に含む、


「…んッ!」


思った以上の味に口許を押さえ俯く、こんな不味い物は口にした事がない。
生物の形の食物以上のブラックリスト入りだろう。


「おい、大丈夫か?水飲め」


差し出された水を受け取りたいけれど、じわじわと苦味が増す粉末に舌の感覚が麻痺してくる、涙目で俯くティエリアの顎を無理矢理上げさせた、


「…ふんンっ!」


それと同時に口の中に水が流れ込んでくる、


「ん、ん…、ン…」


大量の水に喉を鳴らして薬を飲み込んでいった、水と一緒に柔らかい何かが咥内へと侵入して舌を絡め取る。


「はぁ…ん、んァ…ン、や…」


クチュクチュと絡められ呼吸困難になりそうだ、薬はとっくに食道を通ったあとなのにも関わらず続く甘い感覚。
歯列を彼の舌でなぞられゾクゾクと震える身体、半開きの口からどちらともつかない唾液が流れ落ち、それと同時に全身が総毛立った。


「…はッ、も…」


固く閉じた瞳から滴が零れ白い頬を濡らす。
最後に名残惜しそうに舌で唇をなぞられ離れていった。
ティエリアは苦しげに荒い息をつきながら瞳から零れ落ちた滴と口許を汚した唾液を袖でごしごしの拭う。


「大丈夫か?」

「…な、にを…」

「いや、薬飲み込めなそうだったから」

「貴方、なんてこと…」

「どうだ?大人のキスは」

「……万死に値する!!」


掴みかかろうとしたけれど、興奮すると頭がクラッときて彼の側へと倒れこんでしまう結果となる。


「危ないだろ、大人しくしてろって」

「誰の、所為…」


弱々しい声に胸に倒れこむ細い身体を再びベッドへ戻してやった。


「すぐよくなる」


ロックオンはいつものウインクをするとまたティエリアの頭をポンと叩く。


「覚えておいて下さい」

「ああ、お前の味な」

「なッ!貴方って人は…、もう出て行け」


ロックオンの揚げ足とりに再び頭に血が昇りかけるが、今の状態で彼に勝つ見込みは皆無なのは事実だった。
彼もティエリアに気を使ったのか服を整え部屋に戻る準備をする、


「あの…」

「ん?大人しく寝てるんだぞ」

「…はい、助かりました」

「ティエリア、そういうときはな“ありがとう”って言うんだ」

「…あ、りがとう、…ございます…」


ティエリアの照れたような小声に「ん」と、笑顔で答え背を向けた。





END

20080426
++++++
かーわいいよな。

 

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