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□sugar doll
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一月一日の朝、九時過ぎのことであった。
朝からインターホンの呼び鈴に寄って起こされ、眠い目を擦りながらベッドから這い出たロックオン・ストラトス24歳独身英語教諭は元日の朝から訪ねてきた迷惑極まりない人間に苛立ちを覚えた。
こんな日くらいは炬燵でみかんでも食べながらゆっくりと過ごしたいものだ。
居留守でも使おうと暫く様子を伺っていると、再びピンポンと呼び鈴を鳴らされ溜め息を吐いて玄関へと向かう。
「…はい、どなたで…」
「あけましておめでとうございます」
扉を開けるとその前に立っていたのは紅色の鮮やかな振袖を身に纏った女生徒で、ロックオンの恋人でもあるティエリア・アーデであった。
sugar doll
深々と一礼をしながら新年の挨拶をする彼女に面食らう、身に纏っていた振袖も文句のつけ様のないほど似合っていた。
「お、めでとう…って、お前どうした?こんな朝っぱらから…それに、その格好…」
「年の初めは初詣と相場は決まっています、元旦を寝て過ごすなど万死に値します。それからこれはマリナ…刹那の母親にどうしてもと言われて着せられました」
「そうか…、とりあえず上がれよ」
ロックオンは早朝から振袖を着て訪ねてきた恋人を部屋へと招きいれる。
彼女は部屋へ上がるなりロックオンの格好を見て溜め息を吐いた。
正装をしているティエリアとは違い彼は寝巻きとして使用しているスウェットの上下、これでは出かけることも不可能であろう。
「元旦から随分とだらしないですね、」
「仕方ないだろう、昨日まで仕事だったんだよ」
「理由になりません、早く着替えてください」
ティエリアは直ぐにでも出掛けたいのかロックオンを急かして見せる、彼もそれに煽られてまだ温まっていない部屋でスウェットを脱ぎ始めた。
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着替えを済ませた教師を連れて早速神社へと向かうティエリア。
「おい、何でそんな張り切ってるんだよ…ふぁあ…」
欠伸をしながら頭を掻くロックオンにティエリアは視線を向け呟く。
「クリスマス…」
「は?」
彼女は小さな声でそう漏らす、先月の25日はクリスマスと云う恋人たちにとっては大きな大イベントがあった。
しかし、当日に急な仕事が入り予約していたホテルやディナーをキャンセルし、クリスマスを返上して仕事をしていたロックオン。
その間ティエリアは当然一人でクリスマスを過ごすこととなったのだ。
その日からギクシャクしてまともに顔も合わさないまま終業式を迎え年越しを迎えていた。
さすがに二週間近く顔を合わせないというのは今までになかったので、ティエリアは少しの不安と大きな寂しさを感じていたのだ。
「クリスマス…」
「ああ、ごめんな…」
ロックオンは思い出したように謝罪をする、年末は仕事にかまけて恋人に構ってやれなかったのは事実であった。
元日の朝からわざわざ振袖まで着て訪ねてきた理由など一つしかないであろう。
「ティエリア、綺麗だな」
「マリナがどうしてもと…」
「違うよ、お前の話」
隣を歩いていた恋人の細く白い手を取って手の甲に優しくキスを落とすと、頬を染めたティエリアは直ぐに手を引っ込め周りを見回した。
「ここを何処だと!!」
「まあまあ」
笑顔で宥めてくる彼は学校で生徒に見せるそれとは違った表情で、ティエリアは密かに胸の鼓動を早めていた。
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「結構混んでんなー」
「仕方ないですよ」
境内の前に出来た長い行列の最後尾に並びながら二人は呟いた。
元日の朝ともなれば初詣客に溢れてはぐれたら最後、合流することは難しいと思われるほど混雑していた。
「ティエリア、手貸せ」
「なんですか?」
云われた通りに彼に右手を差し出すと、ロックオンはその手を取ってぎゅっと握り返す。
「は、離してください!」
「だーめ、はぐれたら大変だろ?それにしても手、つめてぇな…」
他人の目のある場所でこういったことに慣れていないティエリアは焦って手を引こうとしたのだけれど、彼の強引な言葉にほだされて直ぐに話題を変えられてしまった。
差し出された手の冷たさに驚いたロックオンは、握った手をそのままに自身の着ていたダウンジャケットの中へと突っ込む。
「ぁ、ちょっ…!」
「これではぐれないし温かい」
にこっと笑った彼にティエリアは何も言い返せずに俯いてしまった。
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「おみくじでも引くか」
何事もなかったようにお参りを済ませた二人。
帰りがけに目に入った“おみくじ”の文字にロックオンが食いついた。
「くだらない…そんなものに左右される人生など…」
「まあまあ、一回やってみろよ」
文句を言おうとした彼女を征すように箱に400円を投入し、ティエリアに一つ、自分も一つ引いてみる。
「…小吉か、微妙なところがテンションさがるよな。お前は何だった?」
「凶…」
「…うそだろ?」
ティエリアに無言で差し出された紙には紛れもなく“凶”の文字が刻まれている、彼女はあまりのショックに口数を減らして立ち尽くした。
「いや、あれだ…こんなものに人生を左右…」
「貴方のせいだ!!」
先ほどティエリアが言っていたセリフを引用してフォローをしようとしたロックオンの言葉を、彼女の怒声が掻き消したのだった。
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「はぁ…ドッと疲れたぜ…」
「誰のせいで…」
ティエリアはぷりぷりしながら彼の部屋まで辿り着くなり、先ほどのおみくじのことをまだ根に持っているのかロックオンに視線を移して無言の圧力を与えた。
「まあいいじゃねぇか、おみくじも初詣の醍醐味だろ?」
「あんなもの…私は信じてませんし気にもしていません!」
ツンとそっぽ向いてそう放った彼女の唇は尖ったままで明らかに先ほどのことを気にしていた。
それに内心かわいいなと思いつつ口には出さずに、ティエリアをまじまじと見返す。
起きぬけから今まで慌しくじっくりと彼女を見ることはしなかったけれど、振袖を纏ったティエリアはいつもは隠れている項から白い首筋までを惜し気もなく晒している。
「大体貴方は元旦から……っ?!」
ぐちぐちと文句を言おうとしていると、後ろから無言で抱きしめてくる彼にティエリアはビクリを身体を振るわせる。
「な、なんですか…?」
「なにも?」
「それならば手を離して下さい」
「やーだね、…はぐれたら大変だろ?」
先ほど神社の行列の中で言っていた一言を、あの時より息を含んだ声音で耳元で囁くロックオン。
「はぐれるわけないでしょう!」
「クリスマス、ごめんな…」
ティエリア身じろぐ素振りを見せたけれど不意に漏れた彼の言葉で我に還る、あの日どれほど寂しい想いでいたかを思い出して急に涙がこみ上げてきた。
「卑怯です…」
このタイミングでそんな弱みに付け込むようなことを云う彼に怒りを覚えたけれど、それは寂しかった想いの方が断然勝っていた為に降りてきた彼の唇を拒むことが出来なかった。
「…ん、ぁ…せん、せ…」
「寂しい想いさせて悪かった」
離れた唇で謝罪をする彼に焦れたティエリアは、身体を回して向かい合い自ら彼の唇にキスをしてその先をせがむ。
彼はそれを優しく受け入れてくれた。
ロックオンの手が器用に帯を緩めて胸元を開いてゆき、彼女もそれに身を任せるのみとなった。
キスを受けながら開かれた胸元に、彼の温かい手が直に触れればティエリアは何処か満たされてゆく気持ちになる。
振袖の襟元を乱し肩を露出させた状態になった彼女をソファに寝かせようとした、そのとき、
「あの…できればベッドで…」
ティエリアは小さな声で申し出をする、これから及ぼうとしている行為がわからないほど子供ではない。
不安定なソファよりは広いベッドの方が何かと都合がいいのは当然だ。
彼はお得意のウインクをして「お姫様の仰せのままに」と囁き、軽々と乱れた振袖を身に纏ったティエリアを抱き上げて寝室へと向かったのだった。