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□【心に浸透する】(おや←翔前提照翔)
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「おい、翔太郎。置いて行くぞ」
「待ってよ、おやっさん。待って…」
歩き出す荘吉を追い掛ける翔太郎は手を伸ばす。
「あ、」
だが、その手は服を掴み損ねて空を切る。
すると、それを見兼ねた荘吉が翔太郎の腕を掴む。
「ほら、ちんたらすんな」
「うん」
翔太郎は驚いた様子を見せるもすぐに声を弾ませて返事をする。
何だかんだ言って傍に居させてくれる荘吉に幸せそうに翔太郎は笑った。
そこで視界が変わった。
「あ……夢か…」
今までのが夢だったことに気が付く翔太郎。
ハードボイルドな荘吉に憧れの様な恋をしていたあの頃。
叶わなくても傍に居るだけで幸せだった。
「おやっさん…」
それは荘吉が亡くなったことで崩れたけれど、亡くなった後も翔太郎はずっと荘吉を
愛していこうと己の心に誓った。
けれど、ある人物に出逢ったことで揺るがない想いが揺らいでしまった。
最初は何でも出来て自分よりもハードボイルドに近い、いけ好かない奴程度にしか思っていなかった翔太郎だが、
相手の過去を知り、想いを知り、時折見せる優しさに触れることで仲間以上の気持ちが生まれてしまった。
その事実に気付かない振りをして、蓋をしようとするのだが、逢う度に枷が緩んでしまう。
(これ以上自分に嘘は付けないな…)
ハハと心の中で苦笑いを浮かべた、そんな時だった。
「訪問者に気付かない程、何を考えている?」
「え?」
聞こえない筈の声が耳に届き、翔太郎は顔を上げる。