メイン

□大好きだよこの野郎!
1ページ/1ページ



人間なんて生きてるうちは遠く遠くに離れない限り近くにずっと存在しているものが喪失した辛さは分からない、と言う言葉は真実であった。
今日で庄左ヱ門の大事な人が遠くに行って半年。
折角同棲(とは言ってもお互い仕事仕事で寝るときしか顔を合わすことは無かったが。)をしているのに一人部屋と化していまい、部屋は沈黙が流れている。
今、団蔵は馬できっと遠い異郷へ大事な荷物を運んでいるのだ、こんなことを思っても仕事が終わらないと仕方ないのに、そう思うが矢張り胸の辺りが締め付けられる様に痛む。

「(一体何時まで僕の事を待たせる気なんだよ……)」

庄左ヱ門と団蔵が同棲する様になったのはごく最近の事である。二人がやっていた終わることの無かったかくれんぼが終結した、半年より少し前。
あの時はお互い顔を合わせるだけだったのだが、後日団蔵が「俺、庄ちゃんと同棲したい。」と半分求婚の様なものを受けてからだ。
庄左ヱ門は仕事できっとお互い顔を合わせる事が少ないのだから別にいいのでは無かろうか、と説いたが団蔵は折れることなく、今に至る。
別に庄左ヱ門は一緒に住む事などはどうでも良かったのだ。あそこまで自分の考えを押し通しておいて仕事で半年近く帰ってこないとはどういうことなのか庄左ヱ門が少し腹を立てつつあるのは言うまでも無い。
気晴らしに町にでも買い物に行きたいなぁ、どうせ帰ってこないんだ。と心の中で呟き、よいしょと腰を上げる。
腰を上げるとどこからともなく、「しょーちゃぁーん」と間延びした声が聞こえた。きっとまたしんべヱが来たのだろう。でももしかして団蔵が帰ってきたのでは無いかと少し自分の中で期待してみる。
その少しの期待で木戸を開けると、

「庄ちゃん、久しぶり。」

矢張り声は庄左ヱ門が予想したとおりしんべヱだった。体型は昔よりまた少しぽっちゃりした様だった。
少しだけの彼の期待に皹が入るのが手に取るように本人には分かった。

「元気してる?」
「ああ勿論だとも、しんべヱは?」
「僕はねー、ちょっと南蛮へ行ってたんだー。」

結構遠くて船にずっと居るの疲れちゃったよとしんべヱは笑った。つられて庄左ヱ門も笑うが期待の打ち砕かれた今、最早苦笑しかできない。

「あ、それでねー、そのお土産がこれ。あと…」
「あと、何?」
「驚かないでね…?」
「う、うん?」

珍しくしんべヱが真剣な顔つきなのでゴクリ、と庄左ヱ門も思わず生唾を飲み込む。
緊張が高まり、何が来るだろうか、もしかして南蛮にしかない凄いものだろうか、と庄左ヱ門はワクワクしていた。
その様子を見たしんべヱが、いいよーと声を掛けると遠くから聞き覚えのある馬の鳴き声。
団蔵の、加藤団蔵の愛馬の能高速号の鳴き声。昔よく遠乗りで一緒に乗ったからよく覚えている。
もしかして、今度こそ…!?と勢い良く庄左ヱ門が振り返るその前に、

「庄、ただいま、御免なさい。」

と言われ強く抱き上げられる。
抱き上げられた瞬間庄左ヱ門は瞳を涙一杯にして潤し、そして溜まるかと思うと溢れ出す。
溢れ出す涙を抑えることなく庄左ヱ門は何か言ってる事も分からないような声で怒鳴る。

[どうして、お前がッ、あやま、るん、だよッ…!!」
「だって俺、同棲したいって自分から言ったのに、出来てないから。」
「そんな事、今はどうでもいいよ!団蔵!!」
「なぁに?」

庄左ヱ門の勢いに押されている団蔵。
そんな団蔵はほぼ丸無視で、同棲している家の前で、抱き上げれらた状態で足を思い切りバタつかせ大声で、


「馬鹿旦那ッ!!ずっとずっと待ちぼうけてんだぞ!やっぱり大好きだよこの野郎!おかえりバカァ!!!」
「え、ええあぁ…御免。超御免。ただいま。庄。」
「馬鹿ッ、馬鹿馬鹿!!」
「はいはい」

その光景をすべて見ていたしんべヱは、やっぱり二人は卒業していてもは組のリーダーでいた欲しいな、と再度確認するのであった。
無論その後庄左ヱ門がしばらくこの内容で団蔵にいじられ続けたのは言うまでも無かった。
それから後に、その抱き上げれている絵はどこかの乱視の絵師が描き、その後、「これ絶対入ってるよね」と後世にまで言われ続けるのであった。




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ