*そして僕等の世界は染まる*

□四日目
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「宮二のフタバ」



俺のとなりを歩いていたヒヅキが突然、呟く。

それはある日の学校帰りのこと。

俺自身もその言葉をはじめて聞いたまさにその日だった。



「アイツ、そんな風に呼ばれてたんだなー。

クラスで知らないの俺だけだった。

そんなに有名なのか?」


「いや、呼び名自体は俺も今日はじめて聞いた。

でも有名っつーのはまぁ…、あながち間違いではない」



宮二のフタバ、正式には不良の溜まり場で名高い宮野第二中学校の四ツ倉フタバ。

このあたりで知らない中高生はいないと言っても過言ではない荒れた学校だ。

どこにでもある公立中学だがほぼ例がいなく勉強嫌いが集まり、部活だってまともなところなんて1つ2つだろう。



「でも、不良中学に通ってたってだけでそんな有名ななるもんか?」


「あぁ、アイツは3年間、不良たちのトップだったからな」



今でも思い出す。

次々と入ってくる問題児も荒くれものも、不思議とアイツには着いてくるようになる。

それは高校生や年上にたいしてもにも臆さない強さと、ほとんど誰ともつるもうとしない孤高。

それらがいろんなやつらを引き付けてたんだと思う。



「トップって…、ボスだったのかっ?!」


「だからそうだって言ってんだろ」



ヒヅキが微妙な間をおいてから驚く。



「そんなに驚くことか?

それらしい風貌してるだろ」



紺地の制服に異様なほど目立つ赤髪、いくつかあいたピアス、限界まで着崩した制服。

そして極めつけがあの態度。

年下年上関係なく喧嘩は売られれば買い、教師にも平気で食って掛かる。

入学式前は、あの不良がこの高校に来ると大騒ぎになったらしい。



「んーまぁ、確かにな…」



ヒヅキはわずかに歩くペースを遅くしながら首をかしげる。

俺はそれにペースを合わせながら、半分沈んだ夕日を眺める。

中坊の頃、よく眺めていた気がする。

アスファルトに無造作に座り込んだ俺の後ろにはいつもフタバがいる。

どうでもいいことを喋りながら、オレンジが世界を染め上げるのをゆっくりと待つ。

その時ばかりは痛みを忘れ、ぼんやりとしていた。



「怖いか?」


「あ?何が?」



ヒヅキに短く問いかける。

生徒だけでなく、たいていの教師さえもフタバを避けて通る。

厳つくはないが、威圧感はある。

しなやかな強さがアイツのすべて。



「フタバ。

お前、知らなかったんだろ?」


「知らなかったことは知らなかったけど…」



ヒヅキも目の前の細くなった夕日を眺める。

その横顔は、照り返しを受けて赤く輝く。



「俺、アイツのこと怖いと思ったことないし」



それにそんなに不良っぽくないよな、とアイツの舎弟を自称していた奴等が聞いたら発狂しそうなことまで言う。

実にヒヅキらしい。

いや、俺はコイツがこう答えるであろうことをわかって聞いたのかもしれない。

バカだけど、バカじゃない。



「あ、何一人で笑ってんだよ」


「別に?

笑ってないけど」


「いや!

明らかに笑ってだろ!!」



たくっ…、とよりいっそう顔を赤らめて俺をこづいてくる。

それにまた俺が笑うと、ヒヅキもつられて笑った。







そういえば。



「お前もフタバに詳しいんだなー。

この辺の出身なのか?」


「いや、俺も宮二だけど」


「へー、宮二か…、って!!

宮二?!

フタバと一緒?!!

じゃあもしかしてNo.2だったフタバの親友って…」



あー納得。

どうりで俺も一部に避けられてるわけだ。












(この夕日が沈んだら)
(そろそろアイツの)
(ところへ帰ろう)
 

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