*DO YOU UNDERSTAND?*
□明月
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「あと10分で始動するぞ。
準備はいいか、祐瀬」
支給されたばかりの白い手袋を口にくわえながら、分厚い上着に腕を通す。
組織指定のジャケットなんて、本当は使い勝手が悪くて嫌なんだけど。
そして腕につけていたゴムで、伸び放題の髪の端を束ねる。
「ん、もう準備できますよー」
「お前…、30分にはあらかじめ待機しておけっていつもいつも…」
愁司さんの小言を受け流しながら手袋をはめる。
機関に所属する人間はだいたいがこの格好をする。
俺は6年前にこの服を支給された。
所属するというよりも、買われたって言う方が合っているかもしれないけど。
「間にあったんだから平気でしょ。
遅刻だって最近は3回に1回くらいしか…」
「給料30%カットするぞ、てめぇ」
悪態をつく愁司さんの声の後に、始動前30秒の電子カウントが始まる。
この音を、何度聞いただろう。
そして、あと何度聞くだろう。
分からない。
分からないけど。
『10、9、8、7…』
「やることはちゃんとやる。
それくらいは分かってるから」
『3、2、1、0』
「ミッションスタート。
しっかり働いてこいよ」
目の前のシャッターが開き、目がくらむほど眩しい光が差し込む。
勢い良く地を蹴る。
こうしている時だけは、忘れられる、全部。
あの日のこと、全部。