ココカラハジマル。
「裕瀬!
いい加減起きろ!
お前、今日が初仕事なの分かってんだろうな?!」
機械の準備を終え、まだ姿を現さない裕瀬を部屋まで迎えに来てみると案の定、寝起き同然のいでたちだった。
いや、二度寝してなかっただけましか。
俺なんかすでに2時間も前から起きてるっていうのに。
準備が終わるのを待っている俺に、急ぐそぶりひとつ見せず裕瀬はかけてあった新品の軍服を用意し始める。
「わーかってるよ、愁司さん。
朝イチでメンテナンス、上司に挨拶、着替えて装備確認して出発、でしょ」
「その前に月一の朝礼に出席だろうが。
昨日いっただろ!」
「えー、聞いてないって…」
いかにも不満そうに呟く裕瀬。
体格や顔立ちは変わっても、中身は昔のまんまだな。
つい2週間前、隊に正式に加入したばかりの16歳の少年。
俺が仕事のためにここを離れて以来、おそらく会うのは7年ぶりになる。
その間にぐっと背が伸び、顔つきも随分変わった。
それでも俺の裕瀬への印象は、昔と変わらないままだった。
昔から大人びていたのか、それともまだまだ子供なのか。
どちらと言ったらいいのかは分からないけど。
「お前、杏乃のところに顔出したか?
俺が先週行ったら、まだ来ない、って膨れてたぞ」
「行った行った、今週ね。
この薄情もの!って怒られた」
裕瀬が杏乃のことを思い出したのか、楽しげに笑う。
その顔は、珍しく少し大人びていた。
裕瀬がもしもこの支部に戻ってくるなら、おそらく専属の技術師になるのは自分だろうという、予感はずっとあった。
基本的には人見知りだし、なかなか心を開かない奴だし、身体改造の検体になった者はある程度我儘がきく。
そして案の定、俺は一足先にこの場所へ配属された。
「よし!
準備完了」
まだシワ一つない綺麗な軍服に身を包んだ裕瀬が俺の前にたつ。
この年で仕事なんて早すぎるよな、なんて思うのは奇妙な親心だろうか。
ただ、気になることがひとつ。
「お前、そのままの頭で行くのか?」
「え、まずい?」
「いや、不味かねぇけど…、邪魔だろ」
方の下まで綺麗に伸びた髪の毛。
というか、およそ放置状態なのだろうが。
珍しい艶のある白い髪。
綺麗と言えば聞こえはいいが、垂らしたままでは少々目立つ。
「じゃあ切って」
「俺は便利屋じゃねえんだぞ。
それより確かこの辺に…」
ものを入れすぎて少々膨らみすぎた右ポケットを探ると、やはりあった。
「ほら、これでどうにかしろ」
俺が差し出すと、裕瀬はおもむろにそれを受け取り、まじまじと見る。
「…愁司さん、こういう趣味あったんだ…」
「俺のな訳ねーだろ!!
杏乃から預かった髪止めだ!」
不吉な誤解をする裕瀬にすかさず突っ込む。
ふうん、とつまらなそうに裕瀬は頷き、後ろで適当に髪を一つにまとめた。
「OK?」
「上等。
行こうぜ」
この一歩から、俺達はまた同じ時間を生きる。