小説

□風邪
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朝目覚めたらなんとなく体が重く感じた。



「・・・・」

何かいつもより寒く感じるし。
喉も痛い。
風邪引いたな、と確信した。

てゆーか先輩は?
と同室の先輩がもういないことに気が付き、周りを見てみる。

携帯の時計を見ると。
予定よりもう何十分も遅い目覚めだったみたいで。

「・・・やべ」






「あ、向井」
「おはよーございます」

ま・・・・間に合った。
てゆーか何なのこれなんでちょっと急いで来たぐらいで息切れしてんの俺。
「遅い!遅刻とはどーゆうことだっ!」
沢村は朝から元気に騒いでいる。
「ギリギリセーフだっつの・・・」

話すたびに喉が痛い。
声があんまりでないけど何とか言い返す。
初日から遅刻した奴に言われたくねーよ・・・

「とりあえず軽くピッチー・・・て、お前なんか顔赤いぞ」
御幸先輩が言う。
この人よくこーゆうことには気付くよな。

「や、大丈夫です」
「そうか?」

大丈夫じゃないなんていえないし。

ピッチングに入ると少しは忘れれたけど、時間がたつにつれて足元がおぼつかなくなって来た。

やばいこれはやばい。
と思ったとき、降谷がこっちをちらり、と見て、直ぐに目をそらした。

正直降谷はニガテだ。
何考えてんのかすごい分かるときもあれば、まったく分からないときもある。
口数も少ないし、何か未知の存在。

「休憩に入る!1時にもう一度グラウンド集合!」

監督の声。
あ、何か助かった・・・・・

そこからももうやばい。
何もしてないのに喉は凄い痛いし、頭もがんがん痛い。
ご飯何かもう食べれてモンじゃないので沢村に押し付けて余った時間でどうにかすることにした。
春市が大丈夫?何かしんどそうだね、と聞いてきてくれたので
大丈夫、とだけ短く返しして何気なく前を向く。
とまたそこで降谷と目があった。
とゆうか今日は降谷とよく目が合う気がする。
気付いたらこっちを見てる、と思うのは自意識過剰なのか。

とにかく寒くてたまらないので上着を羽織って、うるさい食堂から離れてブルペンの端で座り込む。

ここならなんとか風邪も凌げるし。

あーーー・・・さむ。
ぽつ、ぽつ。
と雨が降り出した。

雨はだんだん強くなって、ざあああああと勢いよくブルペンの屋根を叩く。
うるさいっつーの。

もう何分たったか分からない。
食堂のほうでキャプテンが、今日の午後の練習は中止で各自動いておくように、
と言ったのが聞こえたけど、もう体がだるくてだるくて
動く気にもならなかった。

ここから寮のほうに戻るのには少し距離がある。
いっこうにやまない雨。
もしかしてこれ濡れながらいくハメになる?

もう今日は最悪だ。
俯いていた顔を上げる。
と、そこには何故か降谷の姿があった。

「うわっ」
思わず声が出る。
ずっと下向いてたから気付かなかった。
いたなら何か言えよ。
降谷は何を言うわけでもなく、ずっとこっちを見たまま。

何?といおうと思ったけど、ずっと何も飲んでなくて久しぶり(?)に声を出す喉は枯れきっていて、
な、がうまく出ずにほとんどに、しか声に出なかった。
しかもちょっと不機嫌そうに言ってしまった。

「・・・・・・さ」
降谷はそんなことはお構いなしに話し出す。
「へ」
「傘、・・・いるかな、と」
「え、は?」

降谷の手を見れば、そこには多分寮のものであろう傘が握られていた。
さしながらここまで来たようで、まだ濡れて水滴がしたたっている。

傘、持って来てくれた?

「いらない?」
「や、い、いる」

いきなりのことすぎて反応できない。
何か自分じゃないみたいだ。風邪のせいもあるだろうけど上手く考えが回らない。
あの未知の生物が、俺のために、傘をわざわざ。

「あ・・・ありがと」
もうどんな反応したらいいのかもわからないし。
とりあえず傘を手渡してもらって、いつまでもここにいるわけにもいかないし、歩き出す。

「あ」
降谷が呟いた。
「傘一つしか持ってきてない」
「マジで」
天然?こいつ天然なのか?
「一緒に入れて」

当たり前のように無表情で言われた。
いや別にいいけど。
話せば話すほどよくわからない。
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