小説

□狂った
1ページ/2ページ






           変わったね



          整わない息
        体中傷まみれになって
       吐き捨てるように言った
  

     

     振り向いた彼は
   いつもの無表情を少しだけ、
     少しだけ崩して

    心底意外そうに言った

     (・・・俺が?)

      そうだよ。
      と呟けば

      しばし沈黙

      きれいな、冷たい切れ長の目を細めて
       彼はああ、と言った
      脳の中で検索した何かがヒットしたようで

        考えないと分からないのか、
        とため息をついてみた

       こっちを向いて、首に手を当てられた
    締める、とまではいかないけど
       多少の息苦しさを覚えるくらいの
        強さで抑えられる

        ただでさえ呼吸が乱れていたというのに。
      あー苦しい。
 
    (何言ってんの?)

       感情の無い声でそういわれた
        それはこっちの台詞、といいたいけど
         今言ったらほんとに何されるかわかんない

       何もかもがはっきりしない
       ぼんやりとしてきた世界でこっちを冷たい目で見る
       彼の姿だけがはっきり映る


       色素の薄い髪の毛に白い肌
       いつみても美人だな、と思った。
      昔そういったことがあるような気がする
       ふざけんな、って怒られたんだっけ

     フラッシュバックする
        ほんの少しの微笑を浮かべた彼の姿
       心の底から幸せを感じてたあの時
   いつの記憶だっけ
       あれ、そもそも笑ってたときあったっけ
   これって私の妄想なのか
      じゃあこれも妄想?どこまでがほんと?

   だって目の前の彼は
       フラッシュバックする映像とは全く被らない
       別人のような表情で私の首に手をかけてる



       
   (変わったのはそっちじゃん)

       ふ、と何故か笑ってしまった
       きり、と力を強められては、と息が漏れる


     ああ、ほんとうに
      ほんとうに
      きれいな人だ

       どうしたって嫌いになんかなれないんだ

       いつかまたあのときみたいに
         笑ってくれるんじゃないかって

       しらか、わ

       「す、き」
      首絞められながら愛の告白か
       彼も狂ってるけど私も狂ってる

     (・・・あっそ)
 
      首の手をのけて
       代わりに、とでもいうように鎖骨の下に
        爪を思いっきり立てられた

       (・・・こんなことされても?)

         いっ、つ・・・・と声が漏れた
        じくんじくんとうずくような痛み
       視界の端で見てみれば、血がにじんでる

        (う、ん)

        精一杯笑顔を作って答えた
        彼はおかしいんじゃないの、と侮蔑するように呟いて
       また冷たい目でこっちを見下した

     そして傷をす、となぞりながら耳元で


      (俺は大嫌いだけど)
  
        とだけ言って出て行った
       

       取り残された冷たい部屋のなか
        目をつぶって彼に付けられた傷をさすった


      浮かぶのはやっぱり
      あの、クールだけど優しさもあった頃の
        彼で

         ああ、ほんとうに

         ほんとうに

          バカみたい
      




      こんな傷でしか繋がりを
感じられないなんて









.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ