book2
□sweet chocolate
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*shinichiro×nanami
「なーなーみぃ、チョコは?」
なかなか起きてこない真一郎を起こしに来た七海が、一番に言われた言葉がそれだった。七海は呆れた顔で、真一郎を見る。ふわぁと欠伸をする大きな子供が、七海に向かって手を伸ばす。
「……チョコは、催促するものじゃないでしょう」
パンと、七海はその手を払いのける。本当はちゃんと用意しているのだが、普通に渡してしまうのでは面白くない。七海はくるりと踵を返して部屋を出て行こうとした。
「……なに?」
「んー。つれないななちゃんを拘束?」
がっしりと腰に抱きついた真一郎がにやりと笑う。寝癖の付いた髪を背中に押し付けると、すっと匂いを吸い込む。
「あー今日は、和食か?」
「ちょ、なにやってんの。離して!」
今日は平日で、お互い仕事もある。まだ時間に余裕があるとはいえ、朝の貴重な時間を無駄にしたくはない。家事全般を請け負う七海には、まだやることもあるのだ。
真一郎の腕から逃れようと、もがくのだが身長差もあってまったく歯が立たない。
ぐいぐいと押しのけようとしても、真一郎は離れようとはしない。七海は、ふうと息を付いて抵抗をやめた。ベッドの中に引き込められて、真一郎の腕の中にすっぽりと納まる。
「んー…ななだぁ」
まるでぬいぐるみのようにぎゅう抱きしめられた七海は、ちらりと壁にかけられた時計を見る。時計の針は、まだ当分時間をくれそうだった。
こそこそと居心地の良い場所に収まった七海は、大きな子供を抱きしめる。優しい目が、七海を見つめて額にキスをした。
「七海」
「ん、なに?」
「チョコくれ」
「はいはい。後でね」
七海の唇が塞がれる。
甘くて、優しい時間。
今日ぐらい、少しだけなら遅刻してもいいかなと、七海は目を閉じた。