book2
□sweet chocolate
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*sora×sunao
「羽柴せんぱい! これ、受け取ってください!!」
用があって学園の廊下を歩いていた直は、数人の女の子達に囲まれる空を見かけた。数年前にはなかった光景だが、共学になった母校の学園の女子生徒たち。母校で数学教諭のアルバイトをしている空は、年齢が近い事もあってか生徒たちに人気があった。
可愛らしくラッピングされたそれを、羽柴は受け取る。きゃあと言う声をあげて彼女達は去っていった。
「…羽柴って、意外ともてるんだね」
「うお!! なんだ、藤守いたんか」
驚く空の手には、紙袋があった。中にはたくさんのプレゼントが入っている。
バレンタインの今日、どこかそわそわとした雰囲気が全体を包んでいる気がする。女の子が増えてきたこの学園では特に。
「いちゃ悪い? 俺は、七海先生に用があるんだよ」
「なに、怒ってんだよ藤守…… あ、もしかして、妬いてる?」
「はあ? ばっかじゃない!!」
にやにやと笑っている空に、直はばしんと背中を叩いた。
ふんとそっぽを向いて、空の横を通り過ぎようとすると、ぐいと腕を掴まれる。
「ちょっと、痛いんだけど!!」
そのまま引っ張って連れて行こうとする空に、直は腕を振りほどこうとする。だけれども、空の腕を振り払う事はできなくて、そのまま空は走り出した。
ばたばたと廊下を走る。特別教室が並ぶここは、お昼時の今あまり人がいない。
誰かに見られなくてすんだのはいいのだが、ここの生徒ではない自分達が廊下を走る姿は目だって仕方がない。
「羽柴、いい加減にしてよ!?」
走るのをやめた空の腕を、直は振りほどく。苦しそうに息をする直に比べて、日ごろから鍛えている空は、まったく息が切れていなかった。
「ちょ、聞いて――んっ!?」
とつぜん壁際に追いやられて、唇をふさがれた。驚いて目を丸くする直に、空は口付けを深くする。拒むように閉じた唇をこじ開けて、空は舌を潜り込ませると直の舌を絡め取った。くちゅくちゅという水音が廊下に響く。
誰が通るか分からないこの場所でのキスに、直は離れようと空の身体を押す。だけれども、空はそれを阻止するかの用に直の腰を抱き寄せた。
飲みきれなくなった唾液が、顎を伝う。酸素を求めて開く唇を塞ぐように降ってくるキスに、苦しさから直の目に涙が浮かぶ。
唇を離された直は、ずるずると壁を伝うように廊下にへたり込んでしまった。
「な…に、すっ……だ、よ!!」
「ごめ、なんかあまりにも可愛くて」
ぺたりと座り込んでしまった直に、空は視線を合わせた。薄く開いた唇伝った唾液を、掬い上げる。びくんと直の身体が跳ねた。
「これ、別に深い意味はないから。あいつら、クラス野郎の奴みんなに配ってんだって」
「べつに……そんなこと、聞いてないもん」
ぷいと直はそっぽを向く。空は、直の長い髪を撫でた。指どおりのよいその髪を撫でて、白くてまったく焼けていない項にキスをする。そのまま首筋に顔を埋めて、直を抱きしめた。
「はなれろ、バカ羽柴!」
「やーだね。ナオがこっち向くまで離してやんない」
ぺろりと首筋を舐めると、ぴくんと直は身体を捩って空を見た。赤らんだ顔に、額、瞼、頬、鼻の先と、キスを降らす。
「なあ、ナオは俺にチョコくれねぇの?」
「そんなにいっぱい貰ったんだから、俺のなんていらないでしょ」
俯いた直の背中を撫でると、空は直のズボンのポケットを探った。あっと声をあげる間もなく、それは空に奪われる。綺麗にラッピングされた小さな水色のそれ。
「ちょ、返して!!」
「ナオのがいい」
「おいしくないかもよ」
「手作り?」
「俺、羽柴みたいに料理うまくないもん」
真っ赤になった頬を直は、ぷくりと膨らませた。
見た目と違って不器用な直が一生懸命作る姿を想像して、空はふっと笑みを浮べる。よく見ると、ところどころに皺がよった水色のそのプレゼント。空は、ぎゅっと直を抱きしめた。
「ばっか。ナオが一生懸命作ったんだから、おいしくないわけないだろ」
直は目を丸くさせると、さらに顔を赤らめる。その顔を見られたくなくて、直はそっと空の胸元に顔を埋めた。
「まずくても、怒らないでね」
「大丈夫だって」
「のこしたら、ダメだからね」
「はいはい」
「あの……はし…くーちゃん」
「ん…?」
直からの不意打ちのキスに、空は目を丸くした。