book2

□キミは僕が守るよ
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「うわ〜ん、いたい、いたいよぉ……もう、やだぁ」

「キラ、泣かないで」



*キミは僕が守るよ




「うぇぇ……あすらん」


度重なる人体実験でボロボロになった身体。
研究員からの虐待。
毎日朝が来るのが怖かった。
お互いの小さな身体を寄せ合うように、この暗い闇の中で生きていた。

どうして、僕たちが連れてこられなければいけなかったの?

お父さんと、お母さんは?

そんな疑問に答えてくれる人はいるはずもなかった。
この地獄のような研究室に僕らは、捕まっていた。
ただ、泣く事しかできなくて。
アスランは、そんな僕をいつも慰めてくれた。
自分も同じように痛いのに。
いや、僕以上にアスランの身体は傷ついていたことは知っていた。連れて行かれるときに、抵抗して、一番に殴られていたのはアスランだったから。気絶させられるまで殴られるとことがほとんどだった。


「キラ、聞いて。イタイのは、もう一人のキラだからね」

「もう、ひとりの?」

「そう。だから、キラはイタくないんだよ」


アスランのその声で、痛みは消えた。

薄暗い研究室の中、僕にはキミの言葉だけが救いだったんだ。


「ほんとだぁ、いたく、ないね。すごいね、あすらん」


幼い僕とアスランは、もう一人の自分を作って、現実から逃げた。アスランがいたから、僕はこの地獄のような生活にも耐えられた。


何もない薄暗い部屋の中、キラは目を閉じた。
フラッシュバックのように、頭の中で映像は切り替わる。


「早く!! 急いで!!」

「走れ、アスラン、キラ!!」


長い長い廊下。薄暗かったそこは、侵入者を継げるサイレンが鳴り響く。バタバタと慌しい足音に怯えながらも、アスランの手をぎゅっと握り締めて僕は走った。
前を走る優しい大人たち。助けに来てくれたのは、隣に住んでいたおにいちゃんとおねえちゃんだった。
ああ、やっとこの生活も終わるのだと安心した。それがいけなかったのだろうか、幼い僕は足をもつれさせてバタンと転んだ。


「キラ!?」

「あ…あすらん!!」


必死に手を伸ばす、バタバタと後ろから研究員達の足音が聞こえた。
もう少しで手を掴める。そう思った矢先、ひょいとその手は遠ざかった。
前を走っていた男が、アスランを抱き上げたのだ。それでも、必死に手を伸ばす。


「ダメ、間に合わない!!」

「諦めろアスラン!!」

「キラ!? おろせ、おろせよ!! キラ、キラァアア!!」

「おいて、かないでぇ……あす…あすらん!!!」



ぷつりと映像はそこで途絶えた。
真っ白い天井を見つめる。もう、随分と昔の事のように思える。今だったら、置いていかれた意味も分かる。もしあそこで、両方を選択していれば皆捕まっていた。
だから、怨んではいない。むしろ、アスランだけでもここから逃げ出すことが出来たことが嬉しかった。
新薬の検体(サンプル)として、様々な薬を試されて、副作用に苦しんで。身体が大きくなってからは、試せる薬も増えた所為。身体中の注射痕は、もう消えなくなってしまった。

そんな生活が何年も続いた。
そして、唐突にその生活は終わりを迎える。きっと、ただの気まぐれだったのだろう。

外の世界に出られる。

また、アスランに会える。

それだけで、嬉しかった。たとえ、それが偽りだとしても。
アスランに使われた薬の効果を見守る。そして、来るべき時が来た時にその効果を試す。
それが、キラの役割。

たとえ、一時しかない幸せだとしても。


「アスラン、もうすぐキミに会えるよ」


真新しい真白の制服を着て、キラはそこに立った。
突然帰ってきたことに、幼馴染のラクスは驚いた顔をしていたけれど、はらはらと涙を流し始めた。昔よりもさらに綺麗になったラクス。涙を拭いて、にこりと微笑んでくれた。


「キラ、お帰りなさい」

「ただいま、ラクス」


ずっと帰りを待っていてくれたんだと、嬉しかった。
そして、無意識に視線は彼を探す。藍色の髪と、優しい翡翠の瞳を。


「キラ…あの……」


静止するようなラクスの声も聞こえたが、振り返るとアスランはいた。
記憶の中よりも、成長して背が高くなっている。
ああ、やっぱりキミのほうが背、高いんだね。


「あ、す……らん……」


幼い頃と変わらない、少しクセのある藍色の髪と、翡翠の瞳。
あの時のように、思わず手を伸ばした。


「なんだ、ラクス。こんなところにいたのか」

「え……」


アスランは、するりと横を通り過ぎた。
まるで、存在を無視するかのように。
何も掴む事ができなかったその手。ゆっくりとキラはその手を下ろす。
ラクスはとても複雑な顔をしていた。


「で、どうしてこんなところに呼び出したんだ?」

「貴方に、お会いしなければいけない方がおりますの」

「……ところで、キミ?」


見つめられた翡翠瞳に、キラはいない。
その問に、すぐに答えることは出来なかった。
唇が震えている所為なのもしれない。
ラクスはそんな手を掴んでくれた。


「アスラン、キラですのよ!! 私たちの幼馴染ではありませんか!?」

「そう、なのか? その……すまない、俺は小さい頃の記憶は曖昧で」

「あ……そう、なんだ」

「その、俺はアスラン。アスラン・ザラだ」

「あ、僕はキラ…キラ・ヤマト……」


すっとアスランが手を差し出した。
キラは、戸惑いながらその手を握ろうとした。背もだけれども、手の大きさも昔より差が付いている。


「キラ!? あなたのことを覚えていないというこのボンクラは放っておきましょう!!」


アスランの手を掴む前に、ラクスに腕を引っ張られる。かすめたその手。
キラは差し出されたその手を、パンと叩いた。


「僕のこと、覚えてないなんて言う奴はだいっきらい!! 行こう、ラクス!!」


ラクスの手を引いて、その場を離れた。
アスランの顔が見えなくなったその瞬間に、目から涙が溢れ始める。周りにいた生徒達が、振り返って見ていたけれど、キラは気にしなかった。


「キラ!!」

「あ、ごめ……ラクス」


ラクスの制止の声に、走るのをやめた。
涙は止まらない。後から後から溢れて、頬を伝う。ラクスは、制服のポケットからハンカチを取り出して、キラに渡した。小さい子にするように、頭を撫でられた。


「キラ、最初に伝えるべきでした……アスランの過去の記憶はとても曖昧なのです」

「そう、なんだ……」



もしかしたら、と思ってはいた。
もう一人を作ることで、逃げる事を覚えた頭は、記憶を曖昧にしていた。

それで良かったのかもしれない。
あの辛いだけの日々は、記憶に残すにはあまりにも強いから。

もしキミが、それを忘れる事で、今まで生きることが出来たのなら。


「教えてくれて、ありがとう。ラクス」


きっと、これから止まっていた時間が動き出す。
奴らも動き始めるだろう。


偽りだらけの平穏が、壊れていく。


キミにとっては、つらいだけ記憶かもしれない。

だけどね、僕にとっては必ずしもつらいだけだった訳じゃないんだよ。


少しずつ、キミは思い出していく。

辛い過去も、痛い記憶も、それも全部キミなのだから。


僕はそれを見守りたい。


“僕がキミを守るよ”


キミは僕の光なのだから。




End


唐突にパロ←←
一応、好きしょ知らない人でも分かるとは思います。視点も違うので、別物ですけどねι
本来なら、アスラン視点にするべきなんですが……

大体同じ時期に、好きしょやってたのでいつか絶対やってみたいと思ってました!!
すっごい自己満けどwww
掻い摘んで、さいごまでやりたい気もするが……






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