'華のゆめ

□いと
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※性描写があり。








時は少しだけさかのぼる。


まわった縁が紡ぐ糸

ゆるり、ゆるりと流れる糸は
時に気まぐれに、揺蕩い、そして流れてゆく。








「どうしてですか!? 約束が…違う!!」


キラは、楼主の部屋に怒鳴り込んだ。煙管を吹かしていた楼主は、隻眼の目をキラに向けた。


「あ、何の話だ?」

「一騎の水揚げは、一週間後のはずでしょう!!」


キラは、楼主の藍色の着物の衿元を掴んだ。煙管を置いた楼主は、ふうと紫煙を吐き出す。ゆらゆらと天井に上った煙は静かに消える。隻眼の鋭い目はキラを射抜く。ぐいと顎を掴まれた。


「この見世の主は俺だぜ。いくら大華だとはいえ、口答えは許さん」

「一騎の水揚げには、もう一人候補がいたはずでしょう!! それなのに、何故!?」


一騎の水揚げには、多くの客が群がった。大華の中でもさらに美姫とされる紫華の蕾。それだけでも、この花街の話題を呼んでいた。
ずっと面倒を見てきた一騎の水揚げ。だからこそ、慎重に選んであげたかった。この街で生きていくためには絶対に、裂けられない運命。
本来なら、蕾の世話役である華が水揚げの客を選んで楼主に意見を上げるしきたりだった。なのに、キラには一切聞かされないまま一騎の相手は決まった。


「どうして!!」


騒ぎを聞きつけた下男たちはキラを引き剥がして、床に押し付けた。離せと叫んで暴れても、体格さのある男には敵わない。頭が押さえつけられた。差していた簪がするりと抜けて、栗色の髪が床に散らばった。


「そいつを牢へ連れて行け。大華とは言え、俺に逆らったのだからなあ」


にいと歪んだ顔に、罵声を浴びせながら引き摺られる。普段は穏やかなキラの状況を、皆が好奇の目で見ていた。




 *  *  *



「あれは、あんまりにございます」


楼主の傍で控えていた下人は、痛ましそうな顔をしていた。紫華とよく似た色の髪に、一房だけ伸びたそれを楼主は拾い上げた。


「お前まで、俺をそんな目で見るのか。幸村」

「ちがっ!?」


隻眼の目がとても悲しそうに見えた。
幸村はふわりと彼を包み込んだ。夜よりも深い黒の髪を幼子のように撫でる。


「大丈夫。某は、いつでも貴方の見方にございます」

「……これを、届けてくれるか」

「はい、この幸村めにお任せ下さりませ」


握られていたのは小さく畳まれた文。その掌ごと幸村は、包み込んだ。





 *  *  *




連れて行かれた牢は、暗く光が届かない場所にある。縄で括られたキラは、ばしゃりと水を浴びせられた。げほげほと咳き込む間もなく、次の水をかけられる。


「紫華とあろうもんが、何したんだ?」

「うるさい!!」

「ほう、随分と生意気な口を利きやがる」


にやにやと男たちは笑っていた。緋色の襦袢が水に濡れて、キラの白い肌にぺたりと引っ付く。浮き上がった身体の細い線が、男達を興奮させた。男の手が伸びる。裾を割って、太ももを撫でられた。


「離せ、やめろ!!」

「今日は、楼主様から言われてるんでなあ、悪く思うなよ」

「めったに味わえねぇ。大華さまだ、十分可愛がってやるよ」

「まあ、アンタは大事な華だからな、傷はつけねぇよ」


ばたばたと縛られていない足で抵抗するが、二人係りで押さえつけられてしまう。男の手が、下肢に伸びる。ゴツゴツとした手で、自身を撫でられた。もう一人の男は、何かをサラサラと白い粉と水を口に含んだ。


「や、やだっ!? はなしっ、んっ―――ッ!!」


押し付けられた唇から、強引に何かを流し込まれる。飲み込むまで貪られるように口内を舌が這い回った。無理やり嚥下させられたその薬は、花街ではよく使われている媚薬。しかし、この見世では使う客はほとんどいない。表向きは禁止になっているが、目が瞑られているだけで使われることはあると聞く。
キラの客には薬に手を出すものはいないため、恐怖がおそう。
どくん、どくんと鼓動が早まる。身体の中で熱が暴れ出す。火照った身体に、男の手が這い上がった。それだけで、身体がびくびくと反応する。


「…や、あ……つ、んっ、はぁ、」

「これりゃ、大華になる筈だ」


白い肌が薄く色付く。下肢に潜り込んでいた手が、息づく奥を割っていく。弛緩した身体は、男を飲み込んでいく。べたべたと這い回る手は、気持ち悪いはずなのに身体は反応していた。


「ア…ん、はぁ……やぁ、ッ!」


無理やり開けさせられた口に、何かがねじ込まれた。生臭いそれに、吐き気がおそう。
這い回る手が身体中を撫で回す。限界まで開かれた下肢で、何かが弾けた。目の前が真白になる。だらり唇の端から白濁が伝う。濡れた髪が床に広がる。


「さすがは名器。今まで、何人の男を咥えこんだんなぁ」


はあはあと荒い呼吸と、下賎な笑い声が響く。犬のように荒い息はまったく整わず、火照った身体は、まだ熱を持て余していた。ぬるぬるとした感触が下肢を伝う。
涙が頬を伝った。中途半端に脱がされた緋色の襦袢。だらりと肩から滑り落ちた。


「今日は、客も入ってるはずだ。それまでここで反省してるんだな」


転がされたままキラは、出て行く男達を目で追った。縛れたままの手で、口元を拭う。赤くなった手首は、縄の跡がくっきりと付いている。
熱が暴れ出すからだを抱きしめた。濡れた身体はかたかたと震えていた。火照った身体は、欲していた。


「……ら、ん……っ!!」


自然と漏れるその名前に、首を振る。ぐっと握った手を床に叩きつけた。穢れた身体が、何を欲する。


「あ、あぁああああああ――!!」


叫んだ声は、部屋を反響して消えていった。

光の届かないこの場所は、今の心そのものだった。



自らが望んで、決めて、だから――



ぽたり、ぽたりと、零れ落ちる涙は、床に吸い込まれて消えた。








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